はじめに:デナリ編

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ウエストバットレスルートから頂上に向かう最後の稜線。デナリ山頂から撮影。

 1998年5月、ぼくは標高6190メートルのデナリの頂上に立った。初めての高所登山だった。まだ自分が20歳のときである。
 デナリは、先住民の言葉で「偉大なる者」という意味をもつ。標高こそヒマラヤの高峰におよばないが、北極圏に近い高緯度にあるため、冬の気象の厳しさはヒマラヤを凌ぐといわれる。かの植村直己さんは、厳冬期にこの山へ向かい、登頂後に消息を絶った。
 ぼくはこの山に登ったことをきっかけに、海外の山を旅するようになった。いわば自分の原点とも言える山である。ここ最近は、毎年ヒマラヤにばかり通っていたが、昨年のK2遠征を終えて、一度ヒマラヤから離れてみようと思った。原点に立ち戻る意味をこめて、今年はアラスカに行くぞ!と思い立った。
 デナリにはもう一度登りたい、とずいぶん前から考えていた。20歳の自分も今と同じように写真は撮っていたが、登るのに精いっぱいで満足のいく撮影はできなかった。デナリを撮りたい。歳を重ね、経験を積んだ今なら、しっかり撮影しながら登ることができるかもしれない。そう思って、春の遠征の目的地をアラスカに定めた。
 アラスカではヤクやポーターに荷物を運んでもらうことはできない。荷物はすべて自分で持ってあがるので、必要最低限のものしか持って行けず、いつものように日記を更新できるかはわからない。それでも、可能なときに粛粛と日々の記録をアップしていこうと思っている。
 出発は5月末。18年ぶりに訪ねるデナリは、自分にどのような姿を見せてくれるだろうか。今から楽しみにしている。

2016年5月26日 石川直樹