登頂の詳細・追記 

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5月26日

〇無酸素登頂を狙っていた英国のデイビッドは、歯痛のためサウスコルから酸素ボンベを使って登頂した。無酸素登頂には失敗したが、やはりメンバーの中では一番強く、最初に頂上に到達した。

〇ぼくの登頂は、デイビッド、マシューに続いてチームの中では3番目だった。ヒラリーステップのあたりで、頂上から帰ってくる倉岡さんとインドネシアの若者とすれ違って、挨拶をした。

〇他のメンバーから遅れていたジムは、プルバとザイルを繋いで、バルコニーから一気に数多の登山者を抜いていったという。ジムは巨人のように大きい体格をしているが、プルバはそのジムをぐいぐい引っ張って、8500メートル近い超高所でフィックスロープにカラビナもかけずに、ブルドーザーのように雪面を駆け上がっていった。HIMEX隊の最強シェルパでありサーダー(シェルパ頭)である、プルバ・タシの本領発揮である。プルバはジムらと共に19回目となるエベレスト登頂に成功した。

〇南峰の頂上手前で、右手の地平線から上りはじめる太陽を見た。日の出前の薄明の空も美しかったが、日の出の強く柔らかい光も印象に残っている。

〇サウスコルには、古いものから新しいものまでゴミが散乱していた。野口健さんに是非拾ってもらいたいと思ったが、野口隊は19日に、サウスコルまで到達することなく撤退した。酸素ボンベに付けるレギュレーターの不調はもとより、天気の読み違いもあったはず。

〇サブカメラのマミヤ7Ⅱ(シルバー)は、アイスフォールで撮影中に水没して一度壊れたが、乾かしていたら奇跡的に直った。やっぱりアナログ機は素晴らしい。頂上には、もう一つの黒色のマミヤ7?を持って行った。マキナ670を持って行こうかと考えたのだが、巻き上げに不安があり、急遽マミヤ7Ⅱに変更した。酸素マスクからたれてくる水滴でカメラのボディはガチガチに凍ったが、氷をばりばり壊しながらシャッターを切った。胸ポケットに予備の電池を入れて温めながら持って行ったのだが、それを使う必要はなかった。

〇NHK隊、AG隊、尾崎隊、倉岡・平岡隊、野口健隊、HIMEX石川以外に日本人はいないと思っていたが、聞いたこともない小さな公募隊に、71歳の松本さん(ブラジル在住)という男性がいて、ぼくが登頂した一日前の19日に登頂に成功している。三浦雄一郎さんが70歳で登頂したときに大ニュースになったことを考えると、71歳の松本さんの静かな登頂は結構すごいんじゃないか。また、お会いしてはいないがハンガリー隊(?)のなかに、若い日本人女性がいたようだ。彼女は南峰付近まで行って悪天候のために引き返し、登頂できなかった。

〇酸素ボンベは、C3(7200m)で眠るときから使い始めた。10年前のチベット側のエベレスト登山では、7900mで寝るときから使い始めたのだが、ネパール側では、C3の睡眠時から使うのが、普通になっている。なかには、C2から使い始める隊もいるらしい。シェルパは、荷揚げのときはサウスコルまで無酸素で行き、本番のアタックの時は、ぼくたちと同じくC3から酸素を吸い始める。隊長のラッセル・ブライス曰く、「昔はみんなサウスコルから酸素を使い始めたけれど、だんだんとその標高が下がってきている」とのこと。

〇外国人の皆さんは、ベースキャンプに戻ってくると、一日でも早く帰国しようとする。だから、本当に休みなくルクラまで歩いて帰ってきた。ぼくはもう少しゆっくりしてもいいのになあと思っていた。登山に二ヶ月間も費やしたのに、登頂後はみんなドライで、哀愁もへったくれもない。

〇HIMEX隊の高所順応タクティクスを振り返る。
まず5500メートルのカラパタールに登り、5200メートルのBCに長く滞在する。
6000メートルのロブチェピークに一度登頂し、下山してからさらにもう一度登り直して、頂上にテントを張って二泊する。
6400メートルのC2に5泊し、7200メートルのC3に無酸素で1泊する。加えて、今回は一度アタックしかけて帰ってきているので、余計に一回C3まで行っている。この行程は、他の隊に比べると、十分すぎるほど完璧な順応行程である。ついてこられない人も出てくるが、ついてこられた場合、登頂準備は確実に整う。ラッセルが組むタクティクスは、10年前もそうだったが、いつもちょっとだけきついのだ。参加者自身の限界をわずかにプッシュさせる。だから激しく疲弊することもあるが、どうにかそれを乗り越えれば登頂できる可能性は飛躍的に高まる。ラッセルのやり方は、ボンベは使うが、それに頼りきらない正攻法の登山であるとぼくは認識している。

〇8000メートルのサウスコルで鳥を見た。あの鳥はいったいなんという鳥だったのだろう?

〇お腹が減り続けている。どんなに食べても空腹がおさまらない。

〇ホテルの風呂場で体を見て、ショックだった。あばらが浮いて、筋肉がおちまくっている。体重計がないからわからないが、かなり痩せてしまったのは確実だ。腕も足も一回り細くなってしまった。自分が自分ではないみたいだ。

〇見知らぬネパール人にネパール語で話しかけられる。村ですれ違うシェルパにシェルパ語で話しかけられる。顔が日焼けで真っ黒で、みんながみんな、ぼくをシェルパだと思って話しかけてくるので、困る。

*写真は、エベレスト頂上にて。飛べない鳥の小さなモアも、頂上まで登りました。意味もわからず旗をもたされて困惑するニマ・テンジン君(19歳)と。
撮影:ニマ・テンジン君の友人シェルパ。