クラカワーの『空へ』を読み直す。 

4月8日

 ロブチェBCで7時起床。シェルパがミルクティーと熱いおしぼりをテントまでもってきてくれた。午前中は太陽が照りはじめ、テント内の温度は急上昇した。友人からもらったイチゴチョコが溶けてしまうほどだった。

 今日はロブチェBCで休息日である。朝からジョン・クラカワーの『空へ』(文春文庫)を10年ぶりに読みはじめ、午後に読み終わった。この本をはじめて読んだのは、たしか2001年にチベット側からエベレストに登ったときだったように思う。もう10年以上も前のことで、細部をまったく忘れていたのだが、あらためてこの本は名作であると思った。

 1996年に起きたエヴェレストのネパール側で起こった大量遭難に関するルポルタージュで、世界中でベストセラーとなったので、読んだ方も多いだろう。

 クラカワーの書き方は、大げさな部分が一切なく、登山遠征の記録にありがちな自分に酔っているような記述もない。きっちりとインタビューをして事実を淡々と書き連ねており、ゆえにリアルである。10年前に読んだとき、自分はチベット側のエベレストしか知らなかった。しかし、去年ネパール側から登ったばかりということもあり、『空へ』のあらゆる記述が微に入り細に入り、突き刺さってくるように目に浮かんだ。

 商業公募登山隊の功罪は、クラカワーが『空へ』で、すでに書き尽くしている。あの大量遭難から15年以上の歳月が過ぎ、当時と変わらない部分もあるが、大きく変わった部分もある。『空へ』をスタート地点におき、あれからさらに洗練、俗化、一般化された現在のエベレスト登山について自分が書かなければ意味がない。

 『空へ』の中心人物であるアドベンチャー・コンサルタンツ隊のロブ・ホールとラッセル・ブライスは同郷の友人同士だった。ラッセルは「ロブ・ホールの過ちは登頂日をあらかじめ設定し、そこに合わせたタクティクスを組んだことだ」と、前に言っていたのを思い出す。ロブ・ホールにとって、5月10日は必ず晴れる、縁起のいい日だったようだが、山の天候はそう簡単に固定されるものではない。だからこそ、ラッセルは天気予報に全力を投じる。BCから4日後、ないし5日後の天気に全神経を集中させて、登頂日を決めるのだ。

 『空へ』について、もう少し書きたいこともあるのだが、パソコンの電源がなくなってきたので、このへんにしておこう。

 明日は朝8時過ぎに出発して、いよいよエベレスト・ベースキャンプに入る。

*写真は、ロブチェ・ベースキャンプ。真新しいテントが建ち並ぶ。