ロブチェピーク登頂。生ウーリーに追い抜かされる。 

4月13日

 朝4時、ロブチェピークのキャンプ1で起床。よく眠れなかった。ここは5300メートルの、ロブチェピークの中間キャンプである。シェルパによるベッドティーなどは当然ない。

 すぐにお湯を沸かし、「鯛のお吸い物」というパックをあけて、スープを作った。真っ暗なキャンプ、頭にヘッドランプを付けて、下半身を寝袋にくるまりながら「鯛のお吸い物」を作っていると、自分は何をしているのか、と思う。昨日の残りのアルファ米は凍っていて、スプーンでかき氷のように削りとってスープに入れるしかない。飲み下すように食べた。

 朝5時、アイゼンを付けてアタック開始。遠くの空が白み始めている。夜明けは近い。下のBCからシェルパが4人上がってきた。ロプサン、ヌル、アン・ツェリン、アン・カルマの4人。彼らは、昨日のうちにハイキャンプに水などを上げてくれていた。シェルパにとって、ロブチェピークなど、散歩のようなものだろう。

 ちなみに、今シーズンのロブチェピークにフィックスロープを張ったのは、IMG(インターナショナル・マウンテン・ガイド)隊のシェルパたちである。

 最初は岩場にうっすらと雪が積もっているだけなので、アイゼンが利かずに登りづらい。そのうち雪が深くなっていって、登りやすくなる。シーズンに入って、何人も登っているので、ステップもできており、迷うことはない。

 アイゼン・ピッケルを使わずに登っているスピードの遅いグループを追い抜かし、岩場を抜けると、雪の急斜面がはじまる。ユマールをロープにかけて、ゆっくりと登っていった。空は明るくなり、ヘッドランプも不要となる。逆にサングラスを装着し、日射しに備える。

 ぼくはラトビア人のエリーナの後ろについて、彼女をサポートしながら登った。ロブチェピークに登るのは三度目になるので、余裕がある。

 先頭は田村さんで次に小島さんがいた。ペースは遅く、最後のほうは這うようになっていたが、小島さんは無事に登頂。初の6000メートル峰の登頂成功と相成った。おめでとうございます。

 ぼくもエリーナと一緒に登頂した。6000メートルの頂きからさらに稜線が伸びていて、6200メートルのもう一つの頂上があるのだが、今回はそこまでは行かない。頂上の天気は快晴、360度の景色を堪能できる。エベレストが正面に見え、マカルーやバルンツェやカンテガやプモリが見える。ロブチェピークは景色が素晴らしいから、好きだ。

 頂上にはいくつかのグループがいた。実はここに、スーパークライマーのウーリー・シュテック(Ueli Steck)がいたのである。ウーリー・シュテックは、30歳代半ばのスイス人で、アイガー北壁、マッターホルン、グランドジョラスの最速登頂記録を持っている。2009年にはピオレドール賞も受賞しているので、登山が好きな方で、彼の名を知っている人も多いだろう。

 昨春は、1シーズンのあいだに、シシャパンマ、チョオユー、エベレストという8000m峰の3つの山を連続、無酸素で登ろうと試みて、シシャパンマとチョオユーの登頂に成功し、最後のエベレストで頂上直下まで行ったけれど登れなかった。その顛末を読むと、怪物ぶりがよくわかる。詳しくはマウンテンハードウェアがサポートしている以下のページを、見てみるといい。動画も圧巻である。
http://www.himalayaspeed.jp/

 で、ぼくはその生ウーリーに、ロブチェピークの頂上直下で、リアルに追い抜かされていた!(ウーリーだと気づかなかったけど)。

 下の方から、オレンジ色のジャケットを着て、ダブルストックの二人組が登ってきたなあ、と思っていたのだが、その一人がウーリーだったのだ。そんなにスピードは速くなかったが、当然フィックスロープを使わず、トレッキング・ポールの持ち手の部分が小さなピッケルのようになっている改良ポールを握りしめて、軽々と登っていった。

 ロブチェピークといえども頂上直下は割と急峻になっているのだが、神楽坂を歩くような感じで、すいすいと上がっていった。恐るべし、ウーリー・シュテック。

 頂上に着いても、ぼくはまだオレンジ色の二人がウーリーとパートナーだとは気づかなかった。二人は頂上に着いてすぐに雪面を整地しはじめたので、頂上に何泊かするのだろうな、くらいに思っていた。ぼく自身、一度は下山するが、もう一度登り直し、ウーリーたちと同じように頂上で2泊して、高所順応に励む予定だ。

 順応行程が、あのウーリーとほぼ一緒とは心強い。今年は彼が何をしようとしているのかわからないが、ここクンブーにいるということは、きっとエベレストかローツェで何かするのだろう。エベレストを無酸素で登ろうとする場合、最強最速のウーリーでさえもシーズンはじまってすぐの4月上旬にはクンブー入りして、ロブチェピークで順応するのである。

 ぼくは下山もエリーナと一緒におりた。昼過ぎにロブチェBCに到着し、昼ご飯を食べて、テントで横になった。標高6000メートルから標高4900メートルに下りただけなのに、酸素が濃く感じられる。

 夜、星が美しかった。さすがに疲れたので早めに寝た。

*写真は、ロブチェピークの頂上で何枚も写真を撮ったなかの一枚。手前の緑のジャケットがシェルパのヌル、右の黄色いジャケットが、アン・ツェリン。奥の緑ジャケットがロプサン。そして、左端にちょこっと写っているのが、ウーリー・シュテックだと思われる。黒いダウンを着ているのが、ウーリーのパートナーか。この時点で、ぼくはウーリーたちに全く気づかず、シェルパの写真を撮っていた……。