ダージリンを徘徊する。 

 旅先では時間がありそうなのに、案外ない。日記も一度更新が滞ると、どんどん日にちが過ぎ去って、置いていかれてしまう。ぼくはいまバングラデシュのダッカにいる。日にちを遡って更新していこう。


 昨晩遅くにダージリンに到着したので、今朝は目覚めるのが遅くなった。10時頃、ホテルをチェックアウトして、パゴダホテルという安宿に移った。パゴダホテルは、一泊わずか300インドルピー(約300円)の宿である。

 昨夜、宿を探していてこのパゴダホテルに行き着いたのだが、インド人観光客で溢れていて、満室だった。オーナーの親父はウィスキー片手に酩酊状態で「明日だったら3室あいてるよ~」などと赤ら顔で言っていたので、今朝来てみたのだ。

 親父さんは昨夜完全に酔っ払っており、ぼくのことなど忘れていると思ったけれど、覚えていてくれていた。酔っ払い状態の彼は不遜な態度だったが、シラフのときはとても謙虚で小心者のようである。その変貌具合に驚いた。

 部屋は値段相応で、シーツも枕カバーも汚く、部屋は小さく、もちろんベッド以外に何もついていない。南京虫やダニ・ノミの類さえいなければどんな宿でも許容できるのだが、このベッドはどうも怪しい。何かがいそうな気がする。

 「シーツが湿っていて汚れているので変えてくれ」と言うと、親父はイヤな顔一つせずに新しいシーツを持ってきてくれた。しかし、このシーツが同じように汚い。妙なシミがたくさんあって、ボロボロで、さらに湿っている。うーむ・・・。

 部屋に大きな荷物を置いて、街に繰り出した。チョウラースターという広場へ向かう坂道の両側には屋台が並んでいて、さまざまなモノを売っている。人混みのなかをかき分けるように歩き、チョウラースターに到着した。

 子どもを乗せて走るポニーが数頭歩き回っていて、シャボン玉が舞い、記念撮影に興じる観光客がいる。絵に描いたような観光地である。模範的な観光地での振る舞いを人々がしており、半ば演じているようにさえ感じてしまうのだが、きっとみんな自然体なのだろう。

 ヒマラヤ登山学校に行こうと思って人に道を尋ねると、木曜日は休みだと言われてしまった。3日間しか滞在できないビザでインドに入国しているので、滞在期間に余裕がない。だから、今日のうちにヒマラヤ登山学校に行っておきたかったのだが・・・。

 とりあえず近くの自然史博物館で巨大な動物の剥製を見学した後、木曜定休とはいえ、もしかしたら奇跡的に入れるかもしれないという望みを捨てきれずに、登山学校へ向かった。

 写真を撮りながら30分ほど歩いて北へ向かい、ヒマラヤ登山学校の入口に着いたのだが、やはり門は閉まっていた。登山学校はヒマラヤ動物園と併設されており、どちらも今日は入れない。

 やりきれない気持ちで坂を下り、ヒンドゥー寺院に立ち寄ったりしながら、ダージリンの街並みを撮影していった。途中で、クツ磨き兼クツ修理屋が路上にいたので、壊れかけている自分のダナーライトを見せて、修理できるか尋ねると「できる」と言う。クツ側面にある皮の縫い目がほつれていたのだが、これをクツ屋のおじさんは、糸と針で丁寧に縫い直してくれた。「ついでにクツも磨いていけ」と言うので、磨いてもらうことにする。

 今までダナーライトをいろいろな国の路上で磨いてもらった。エチオピアで少年に磨いてもらった後はオレンジ色になり、ネパールでは黒に近い焦げ茶色になった。アジアやアフリカではガソリンを混ぜた妙な靴墨を使っているので、皮が変色する。ダージリンではどんな色に変色するのか楽しみにしていたのだが、案外普通にピカピカになった。茶色の皮の部分を磨き終えると、今度は靴底に黒いクリームを塗りはじめた。脇目もふらずに手を動かす彼を見て「すぐに汚れるから靴底は磨かなくていいです」とは言えなかった。

 とにかくクツは生まれ変わった。ぼくはちょっとだけ明るい気持ちで、街を再び歩き出す。ダージリンの紅茶畑や、バス・ターミナルの群衆を撮影し、めずらしい草花が見られるのを期待して植物園にも行ったが、単なる巨大な公園であった。バザールのなかを歩き回り、アパートの屋上にあがって夕暮れの街を撮影した。

 ダージリンに関しては、ようやく距離感もつかんで、どこにでも歩いていける状態になれた気がしている。結構、いい街だな。

*写真は靴の修理と靴磨きをしてくれているおじさん。無口だが、腕はたしか。