クランポン・ポイント。 


9月4日 マナスルBC(4700m)→クランポンポイント(5000m)→マナスルBC

 朝5時13分に目が覚める。夜22時には寝ていたはずなので、よく寝たほうだろう。

 五反田団の前田司郎さんが、夢に出てきた。木々が緑に輝く夏の盛り、前田さんは利賀のような日本の田舎町(でも近くに海がありそうな風景だった)で、映画を撮ったり、芝居の稽古をしていた。ぼくはそこを訪ねて稽古を見たりしつつ、「人間は7歳で完成し尽くしている」ということについて、前田さんとひたすら話し合っていた。二人とも同意見だった。変な夢だが、めずらしく起きてからも覚えていた。

 朝食は、ポリッジと目玉焼きとパン。ポリッジにココアパウダーを入れ、目玉焼きに宮古島の塩(わざわざ日本から持ってきた)をかけ、パンは食べなかった。

 朝食後、ラッセルから無線とビーコンを渡され、機器の説明を受ける。
HIMEX隊では必ず一人一台無線を持ち、例えばC1に着いたときやC1を出るときなど要所でベースに連絡をとることになっている。ラッセルがすべて時刻を記録し、安全確認はもちろん、ペースが遅すぎる者などのチェックを行う。

 また、ビーコンは雪崩に遭ったとき、自分の位置をしらせ、また他のメンバーの位置を知るためのものである。エベレストでも使用していたのだが、午前中はビーコンの講習をあらためて受けることになった。自分が目をつぶっているあいだに、一つのビーコンがどこかに隠され、自分のビーコンを使ってそれを探し当てるゲームのようなこともした。マナスルは雪崩の危険性も高く、正確にビーコンを使用したい。

 昼食は、生野菜のサラダ、フライドポテト、魚の缶詰、ピタパン的なパンだった。腹の状態は完治しかかってきたので、ようやく普通の量を食べることが可能になった。あとは体重を元に戻すべく、毎日たくさん食べるのみである。

 昼食後、順応も兼ねて、標高5000メートルの「クランポン・ポイント」まで上がった。クランポン・ポイントというのはその名の通り、そこからクランポン(=アイゼン)を付けるという場所で、普通のトレッキングシューズで行ける限界の場所のことを指す。つまり、そこから氷河歩きが始まるわけだ。

 途中で雨が降ってきたが、1時間もかからず難なくクランポン・ポイントに着き、早足で標高4700メートルのBCへと下った。

 写真がクランポン・ポイントから見たマナスルの氷河である。数日後、アイゼンを付けてこの氷河を上がっていき、キャンプ1を目指す。そろそろ他の隊が入り出したが、まだまだHIMEX隊が何もかも一番乗りの状態だ。

 ベースキャンプに戻った後、シェルパたちとバドミントンをした。バドミントンをするのも中学生ぶりのような気がする。20歳のニマ君と対戦したのだが、まったく歯が立たず、シェルパ頭のプルバに入ってもらって、プルバ・石川組VSニマ君一人という2対1のハンディキャップを付けて戦ったのだが、結果は変わらなかった。プルバもバドミントンはそんなにうまくなくて、ちょっとほっとした。

 腹の状態がよくなると同時に、お腹がきちんと空くようになり、テント内で、日本から持ってきた行動食をつまみ食いした。餞別としていろいろな友人からいろいろなものをもらったのだが、スープはスープ、粉末飲料は粉末飲料でパッキングし直したため、誰に何をもらったかよくわからない。とにかくいただきものの一つに「塩キャラメルくるみ」というのがあって、美味しかった。同種類のくるみ菓子が、今春のローツェのときも行動食袋に入っており、これも同様に美味しかったのだが、いつも誰がくれるのだろう。ともかくどうもありがとうございます。

 六本木の2121デザインサイトで東北の衣食住をテーマにした「テマヒマ」展という展覧会をやっていて、その会場で売られていたという盛岡の駄菓子も食べてみたのだが、これも美味しかった。しかも、お腹に良さそうだった。どうもありがとうございます。

 ちなみに2121の「テマヒマ」展は見応えのある展覧会だった。特に最初のほうに出てくる映像作品がいい。もしまだやっているなら、皆さんぜひ観に行ってください。(*編集部註 「テマヒマ」展は残念ながら会期終了)

 展覧会ついでに思い出したので書くが、慌ただしい8月、仕事の合間を縫って、いくつかの展示を見た。都写美の田村さん国立新美の柴田さんIZU PHOTOの松江さんワタリウムの歴史の天使などなど。亡くなった多木さんに捧げられた『歴史の天使』は面白い展覧会だった。多木さんやベンヤミンのテキストが異なる意味合いをもって新しく立ち上がってくる。クレーの『新しい天使』は、今こそ思い出されるべきだろう。

 夕方、シェルパたちがまたバレーボールをやっている。じっと見ていてわかったのだが、どうやら彼らはお金を賭けている。だから、こんなにも熱心なのだ。エベレスト・ベースキャンプにはバレーコートを作れるような場所はないが、マナスルにはある。シェルパにとってベースキャンプでの楽しみが多い分、マナスルのほうがきっと余裕をもって仕事をしているに違いない。生き生きとした表情のシェルパたちを見ていると、こちらまで嬉しくなる。

 18時30分から夕食。牛肉のステーキ的な肉塊と野菜炒めとマッシュポテトと米を食べた。

 20時にテントに入り、日記を書いて、就寝。