陶酔の街。 

10月5日

 サマゴンからのヘリは、空と山のあいだを縫って飛んだ。やがて緑の谷に入り、平原へ抜け、街に、カトマンズに到着した。そして、無数の境界が絡み合う混沌のなかに、ぼくは身を沈めるのだ。

 カトマンズの空港で、蒸し返すような暑さと喧噪に包まれる。迎えに来たタムディンが、「これでも朝は冷えるようになったほうだよ」と言う。ぼくには夏の暑さとしか思えない。山から着てきたダウンジャケットがひどく場違いな気がして、すぐに脱いでザックの底に押し込んだ。小汚い自分が、アメンボのように水たまりに浮いている。

 9月30日に登頂してBC着、10月1日2日はBCレスト、3日にBCからサマゴンへ下り、すきま風がひどい作りかけのロッジで一泊して、翌4日朝、ヘリでカトマンズの空港に到着した。

 ぼくはこの一ヶ月間、できるだけ率直に日記を書いてきたつもりである。しかし、すべての情報は、語り手の主観によってゆがめられている。世界をゆがめずに模写できるのは、写真だけなのかもしれない。

 「ここにグリーンの絨毯がある」と言ったとき、それは黄緑色かもしれない。薄汚れているかもしれないし、真新しいかもしれない。波打っているかもしれないし、隅々までピンと張られているかもしれない。埃だらけかもしれないし、毛羽立っているかもしれない。ある情報は、こうした世界の詳細をすべて消してしまう。

 以下に飛べば、ヒマラヤン・エクスペリエンスのウエブサイトに掲載された、ニュースレターを読むことができる。2012年秋のマナスル遠征だけで今のところ9回発行されている。書き手はラッセル・ブライス。
http://himalayanexperience.com/newsletters/manaslu-2012/manaslu-2012-newsletter-9

 ぼくからの情報だけでなく、上記のようなまた別の書き手からの情報を取り込むことによって、世界はもっと豊かに浮かび上がる。世界の輪郭はひどく複雑でありながらぼんやりとしていて、しかし自分の想像を遙かに超える広がりをもっている。

 10月22日19時30分から、原宿のVACANTで、マナスル登山の報告会のようなものを行う。
http://event.hutu.jp/post/31851364139/too-much-magazine-presents-the-seven-continents

 今回の遠征は、通信を衛星電話に頼っていたために、写真などもそんなに送れず、テキストの更新が精一杯だった。22日のイベントでは、ブログにはアップできなかった未公開の写真や動画などをお見せできる予定である。伝えきれなかったマナスルの現状をもう少しきちんと話したいと思う。今回もTOO MUCHMAGAZINE主催で、入場者には「限定マナスルZINE」も配布予定。お時間がある方は、ぜひ。*要予約:booking@n0idea.com (VACANT)

 また、11月23日より、石川県の金沢にあるギャラリー「SLANT」にて、写真展『Manaslu』の開催を予定している。帰国したら、すぐにフィルムを現像しなくてはいけない。金沢の展覧会では、新作写真集を制作・販売予定である。

 では皆さん、顔の日焼けが落ち着いた頃、どこかの会場でお会いしましょう。