マカルー・コフ。 

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10月31日

 朝7時半起床、ベッドティーとおしぼり。いつものHIMEX隊の日々が始まる。ラチューとギャヌーともう一人いつも名前を忘れてしまうおじさん(多分ラクパ)、この3人がキッチンを担当するシェルパである。

 朝食は豆とパンと二つの目玉焼きとミルクコーヒー。

 午前中は暖かいのだが。14時を過ぎると日が陰り、じっとしていられないほどの寒さとなる。すべては朝8時から14時までの6時間のあいだにやらなければならない。

 どうやら「マカルー・コフ」ともいうべき咳をもらってきてしまったようだ。ヒマラヤで有名なのは、「クンブー・コフ」である。乾ききった高所で咳がではじめるとなかなか治らない。エベレストBCなどでは咳で苦しんでいる人がたいてい一人はいる。なかには咳をしすぎて、肋骨を折る人までいた。咳とヒマラヤは、切っても切り離せないのである。

 久々にHIMEX隊のシェルパ頭のプルバに会った。「おー元気か」からはじまり、新しい写真集『Lhotse』(SLANT刊)を見せると喜んでくれた。あの写真集のなかには、プルバの奥さんと二人の双子の子どもが写っている。一人の子は足を骨折してギブスを着けている。二年前、クムジュンで撮影した写真である。プルバが瞬きもせずにじっとその写真を見つめる姿が印象的だった。

 そのプルバに「体調はどうだい?」と聞かれ、「体調はいいけど、咳が出るよ」と言ったら「マカルーコフをもらってきたね」と言ってにやりとした。クンブーコフは聞いたことがあったがマカルーコフは聞いたことがなかった。やっぱりヒマラヤのどこの谷に行っても流行の咳はあるのである。

 というわけで、ぼくの咳はマカルーBCではじまって、今の今まで続いている。パブロンやルルを飲み、生姜湯を飲み、トローチをなめ、南天のど飴をなめ、漢方にまで手を出しているのに治らない。そういう咳なのだ。うまくつきあうしかない。

 昼食は、パクチーとソーセージの入った味噌汁。

 午後からまた寒くなりはじめた。咳を悪化させてはいけない。ヒマラヤは冬に入りつつある。春の登山では夏に向かうので雪や氷が溶け出す。秋の登山では、どんどん気温が下がっていく。しかもここは北面だ。厳しい場所である。

 明日はアマダブラム北稜の最初のコルまで行ってみる予定だ。

*写真は、アマダブラムを背にしたBCのキッチンテント。ぼくたちしかここにはいない。他の隊はすべて去った。