テレビ、iPhone、東京順応。 

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11月17日

 咳が止まりかけてきた。さっさと医者に行けばよかったものを、ひたすらパブロンで堪え忍んでいたので、なかなかよくなってくれなかった。が、近所の医者に行って、適切な薬をいただいたおかげで回復しつつある。

 アマダブラムC1に行く前日の夜、別世界にいる夢を見た。日本ではここ数年風邪などひかなかったので薬も飲まなかったのだが、アマダブラムBCにいるあいだは体調を立て直そうと風邪薬を飲んでいた。どうやら日本の風邪薬と、インドやネパールで安く売られているティーバッグの相性は極めて悪く、夕食時に紅茶を飲みまくったあげく、その紅茶で風邪薬を服用したところ、はっきりとした幻覚を見た。高所の影響もあるのか、単なる「夢」を越えた強い幻覚作用だった。ハッとして夜中に目覚め、テントのジッパーを開けて外を見て確認し、ここがヒマラヤではないことを確信した末に、二度寝した。が、翌朝7時半になって、おしぼりとミルクティーをもってきてくれたのは、確かにキッチンシェルパのラチューだった……。風邪薬+ネパール茶葉による小トリップ、おそろしや。

 日本に帰国して実家で静養していると、うちの親が「ビデオ録っておいたわよ〜」などと言う。何も頼んでないのに、何を言っているのかと思ったら、イモトさんのマナスル登山の番組を勝手に録画しておいてくれたようである。することもないので、ぼんやりそれを見ていると、HIMEX隊のラチューが出ているではないか。(他の隊の様子を遠景で写している映像が、HIMEX隊のBCの様子を写しており、そのなかでラチューは他のシェルパと雑談していた)。

 ラチューはHIMEX隊のキッチンを取り仕切る古参シェルパの一人である。ヒマラヤ8000メートル峰14座のうち13座のBCで働いたことがある伝説のキッチンシェルパで、ある意味、登山家よりも山のことを知っている。食料を切らさず、余らせず、腐らせず、遠征が長引こうが早く終わろうが、きっちり計算して使い切る。まずいだの食欲がないだのというわがままな登山者相手にキッチンを切り盛りするのは、登頂以上に大変な仕事だろう。縁の下の力持ちとは彼のことである。今回の遠征でも世話になった。

 ラチューが行ったことがないのはナンガパルバットのBCだけだという。ポーランド隊だったか、冬のK2のキッチンで働いたときが一番やばかった、と。彼のよもやま話は大変面白いので、ラチューにもいつかロングインタビューを敢行してライフストーリーを聞いてみたい。そんなラチューも、日本の人気テレビ番組に自分が出ていたことなど知らないだろうから、次に会ったら教えてあげよう。番組自体は、懐かしい風景がたくさん出てきて、面白かった。マナスルはいい山だ。

 帰国直後、auショップから連絡がきて、予約していたiphone5Sが店に届いたという。ぼくはこれまでずっとガラケーでしのいできた時代遅れの人なので、ようやく初のスマートフォンを入手したことになる。(ネパールで買ったSIMフリーのiphone3があるが、海外でしか使ったことがない)。早速購入して家でいじっていると、デフォルトで入っている壁紙に、山の写真があった。よく見ると、アマダブラムではないか。しかも、アマダブラム北稜の写真である。アップルの人がこの写真を撮ったのか?ヘリから撮ったのか? いや、空撮ではないかもしれない。BCから見えるアマダブラムの姿にも似ている。ディンボチェからあんなに遠い北稜のBCまでわざわざ誰かが行って撮ったのだろうか?そもそもこういう壁紙の写真って、いったい誰が撮ってるの?

 謎は深まるばかりだが、自分のiPhoneの壁紙をその写真に設定した。アマダブラムから帰国直後に手にした携帯電話に、アマダブラムの、しかも北稜の写真が当たり前のように入っているとは、少なからず因縁を感じる。アマダブラム、いつか必ず登頂したい。

 とまあ、こんな感じで、ゆっくりと東京順応を開始した次第である。寝込んでいたので、仕事関係のみなさん、メールの返信が滞っていて、すみません……。

*写真は、iphoneに入っていたアマダブラム北稜の写真。5Sだけじゃなく、5にも入っているみたいなので、iphoneをお持ちの方は見てみてください。見栄えのいい、かっこいい山です。登りたくなりますよね。