順応終了、あとは登るだけ。 

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7月18日
C3→C2→C1→BC

 朝4時頃、ウディが「雪が降っててやばいから、さっさと降りるぞ」と皆に声がかかり、急いで準備をしたのだが、外に出てみると雪は降ってなくて、晴天だった。このウディの「幻の雪」事件は、その後、長らく笑いのネタになった。夢でも見たのだろうか。

 というわけで、予定時間よりも早くC3を出て下山した。南南東リブは、まだこのC3までしか登っていないが、ぼくは登りよりも下りの方がいやだ。ロープがなくても、アックスさえあればどうにか登りはいけるかもしれない。が、下りはロープなしでは、ぼくの技術では無理だ。確実に死ぬと思われる。

 懸垂下降とロープをつかみ、降りていく。「よくもこんなところを登ってきたなあ」と頭の中でぼやきながら、下る。氷河の出会いや、ブロードピークが見える。本当に美しい風景なのだが、それに見とれている暇はない。

 下山では、グリセードならぬシリセードもバカにできなくて、アックスで制動をかけながら滑り降りることは遊びではなく可能である。しかもそのほうが、早い。K2に来ているシェルパの中にはそれでゴアテックスのズボンをボロボロにしているやつが何人かいる。ちなみに、ヨーロッパのモンブランの最速登頂+下山記録は5時間半ほどで、行きは陸上競技のスパイクのようなもので登り、下山はビニール袋を尻に敷いて滑って下ったそうだ。しかし、ぼくにはK2をシリセードで下山する勇気はない。ズボンをガムテープで補修する羽目になるのはいやだ。

 取り付きまでヘロヘロになって降りてきて、今度はモレーンをまた歩いてBCまで戻らなくてはいけない。みんなてんでバラバラに帰り、ぼくは途中まで氷河上を歩きながら、BCまでの最短距離に近い地点を通ろうと欲を出したら大きなクレバスに落ちて、体が「く」の字に曲がって穴にはまった。100メートルくらい先を歩いていたハーバートはまったく気づいてくれないし、ぼくの後ろにいるはずのメンバーは姿が見えない。自力で脱出したが、かなりまずかった。やっぱり距離が長くても、氷河とモレーンの境目は迂回するに限る。

 BCに着くと、ぼくとアレックとビリーのテントが勝手に移動させられていた。氷河は一日に1メートルも動いていて、BCを留守にした二泊三日のあいだに、テントの位置を変えなくてはいけなくなったらしい。新しいテントサイトは、シェルパのダイニングテントの裏。

 移動したばかりの新テント内で、コーラとスプライトをがぶ飲みして生き返る。ジュースは本当に素晴らしい。

 シャワーを浴び(といってもバケツのお湯で体を洗うだけ)、髭を剃り、トイレに行き、洗濯物を仕分けし、テントの中を整理した。

 昨日から干し苺しか食べていないので、お腹が減ってしょうがなく、昼食と夕食がたまらなく美味しかった。昼食はフライドポテトとコールスローサラダと缶詰の魚と缶詰のフルーツポンチ。夕食は、つくねとちくわが合体したような鶏肉の何かと、ご飯と、カリフラワーとじゃがいもの炒め物。

 さて、あとは何日間になるかわからないが休息して、頂上へ向かうだけだ。とにかく、回復につとめよう。

 夜、テントの中でぼんやりしていると、遠くからパキスタン音楽が聞こえてきた。新しいテントサイトは、シェルパやパキスタンスタッフのテントの近くになったので、彼らの生活音がどこからともなく聞こえてくる。そして入口を開けるとK2が見える。

 さて、またBCの日常がはじまる。

*写真は、C2に着く前の斜面。