明日からブロードピークへサミットプッシュ。

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7月25日
BC

 朝4時過ぎに起床。寝袋に半分くるまりながら、テントの入り口をあけ、K2を仰ぎ見る。(雲がかかってない!)頭の中でそう呟くと、ぼくは寝袋から這い出て、氷河とモレーンへ向かう準備をした。

 朝4時半、ザックを背負って、テントを出る。まだみんな寝ているので、起こさないように、怪しまれないように、そろりそろりとテントを離れ、BC下の川を渡り、向こう岸に出た。それでも、音を立てるとシェルパなどが起きてきそうだったから、忍び足で氷河のほうへと歩いていった。

 振り返るとK2の頂上に輪っかのような雲がでている。そして、日の出のオレンジ色の光が頂上にあたり、朝焼けになった。ぼくは三脚を立てて、シャッターを切った。

 その後、氷河の上を歩いて、さらにモレーンに出てからブロードピークのBCへと向かった。昨日もブロードピークBC方面へ向かったが時間切れで途中で帰ってきてしまったので、今日こそはブロードピークのBCを訪ねよう。

 ゴドウィン・オースティン氷河は、めずらしい石の宝庫だ。レンガ色の石、緑色の石……、ぼくが鉱物に詳しかったらここにいることが何十倍も面白かったろう。クリスタルを探しながらモレーンを歩いていくうちに、ブロードピークBCが見えてきた。

 手前の小高い砂利の丘に登り、まだまだ寝静まっているブロードピークBCを俯瞰で撮る。ブロードピークBCはK2BCよりも日当たりが悪く、もう6時過ぎだというのに、まだ日があたっていない。

 皆、寝ているということに加えて、いまブロードピークでは、小さなウインドウにあわせて、少なくない人数がサミットプッシュに出ている。そんなこともあって、ブロードピークBCは静まりかえっているのだった。

 存分に写真を撮ると、ぼくは帰途についた。8時の朝食までにK2BCに帰らなければいけない。今度はK2を正面に見ながら、来た道を引き返した。

 朝7時半頃にK2で雪崩があった。ぼくたちのルート上ではなかった。そして、8時少し前、ぼくがK2BCに着く直前、さらに大きな雪崩があった。今度は南南東リブのルート上、C2あたりが雪煙がもうもうと舞い上がり、下に流れていった。「ああ、終わったかな」そのとき、思った。

 昨日のマイクホーンの報告でルートがズタズタになっていることがわかり、皆が意気消沈しているところに、この雪崩である。

 朝食後、すぐにミーティングが開かれた。結果から言えば、とりあえずK2はほぼ終了に近い。この状態でシェルパが工作に向かうことも、メンバーが上に上がることもリスクが大きすぎる。ロープは雪に埋もれているのではなく、氷の中。そして、頻発する雪崩。雪面が氷化してしまったC1からC2のルート。雪が溶けて岩がむきだしのトラバースがやばいC2からC3のルート。腰まで雪があり、手練れの登山家でもショルダーに出られなかったC3より上のルート。ルートは、それぞれの標高によって、きっちり最悪の状態になっている。

 アブルッツィ稜も似たような状況だ。ガレットマディソン隊のシェルパが一人、比較的な大きな落石によって肩と腕を骨折し、昨晩またもHIMEXのドクターのところに運ばれてきた。軽度の骨折ではなく、重傷である。昨日の日記にも書いたように、セブンサミッツ隊のC1は雪崩にうまり、デポが全部なくなった。ぼくたちがアブルッツィ稜にルートを変更したところで、また振り出しに戻るだけで前に進めそうにない。当然、今季の登頂者は、まだ出ていない。

 ブロードピークに標的を移すしかなさそうだ。が、ブロードピークもまだ登頂者が出ていない。C3から上の深い雪に阻まれて、7900メートルで引き返してきた登山者が、現在の最高地点。

 天気予報によれば、次に好天がやってくるのは、8月4日5日ごろだという。まだ10日近くもある。そこまで待って、今までのトレースがすべて雪に消え、新たにルートを開くとしたら、時間的にギリギリになってしまう。そして、そんな長期予報があたる保証もない。だとしたら、天気が多少悪くても、いま突っ込むしかないのか。ぼくたちは話し合いをし、明日、サミットプッシュに入ることに決めた。

 天気予報では、本当は今日は雷雲が来る予報だった。が、それはこなかった。朝焼けのK2の写真を撮れたくらいだから、天気はいい。そうやって、予報ははずれる。明日明後日も天気が崩れる予報なのだが、10日間待って最後のチャンスに賭けるよりは、いま突っ込むほうが、メンバーの不満は解消されそうだ。しかし、ぼくは正直、不安である。天気予報はまれにはずれるが、だいたいあたる。天気が崩れると言われているのに突っ込んでいいのかどうか。ラッセルは、悪天だったら即引き返すという条件で、サミットプッシュを認めた。明日26日、まずBCからC1をとばしてC2へ行く。明後日27日、C2からC3へ行く。明明後日28日、C3から頂上を目指す。29日にはBCに帰れるだろう。

 だが、今晩、夜中の2時の段階でもう一度天気を確認し、予報通り天気が崩れたらプッシュは延期になる。日記が明日更新されれば、プッシュは延期になったということだし、もし丸一日更新がなかったら予定通りプッシュに出たと思っていただいて、いい。

 目の前にK2があって、すでにC3まで登ったというのに、本当にあきらめるしかないのか。奇跡は起きないのか。ルートは、技術的にはそんなに難しくないことがわかった。自分でも登れる。が問題は、気象条件と環境である。

 そして、このままだとブロードピークの頂上もあやうい。たとえプッシュに出ても、天気が崩れる予報なので、C2で、あるいはC3まで行って引き返すことも大いにありうる。というか、現実的な話、天気予報がまったくもって思いっきりはずれるということがほとんどない以上、C2かC3まで行って、天気が崩れて引き返す可能性が高いように思う。もしこのプッシュで、頂まで行けたとしたら、運がいいとしかいいようがない。

 だからといって、明日プッシュに出ずに10日間も雪が降り続くのを見て、晴れてからプッシュに出たところで深雪に阻まれて、登頂は難しい。つまり、にっちもさっちもいかない最悪な状況ということだ。シェルパのビザやぼくたちの飛行機の問題もあって、ただ待てばいいというものではなく、時間が限られているのだ。ううう。

 というわけで、望み薄なサミットプッシュの荷造りは、先ほど完了させた。ダウンのワンピースはK2のC3にデポしてあり、ない。取りにいける保証はない。セパレートのダウン上下でなんとか寒さをしのぎつつ、登る算段。果たして、結果はどうなるか。

 夜になって天気が崩れてプッシュが延期になる可能性は大いにあるが、一応、明日から行ってきます。

*写真は、朝、寝静まっているブロードピークBC。