『マナスルの嵐』ラインホルト・メスナー 

  • 『マナスルの嵐』
  • ラインホルト・メスナー(著)、岡沢祐吉(訳)
  • 二見書房


「わかりました。つぎの更新はちょうど八時。ジョスルが君たちに小話をしたいようです」
「いいですね。ここはまったく、冗談などいえる場所ではありませんからね。たえまなく僕らの左右に氷なだれが落ちています。今はかなりなれましたが、それでも眠りは妨げられますね。登はん中も体をすくめることはしょっちゅうです」
「なだれの音になれると、眠るときには子守歌になりますね。ではジョスル」
「はい、ラインホルト、君はこの話、知ってますか――二匹の蚤が映画館から出てきた。一匹はもう一匹に言った。『さてどうする。歩いて行くか? それとも犬でもつかまえるか?』」
(バットレステントのなかではみな大笑いだった)
「ところでジョスル、犬といえば僕らの犬はどうしました? ベースキャンプにいたカール・マリア? どうぞ」
「とても元気です。かれこれするうちにみんなに慣れてしまい、僕らがテントから離れて行けばきまって吠えますね。よく眠ってください。それでは終ります」
 ポカラから可愛い、小さな犬が僕らの後を追ってきた。この、それこそありとあらゆる種類の血が混じりあっている犬に、とうとう僕らはカール・マリアという洗礼名を授けた。それ以来この犬の役目はベースキャンプの番をすることだった。


蚕のくだりはよくわからない。ヨーロッパ流のジョークなのだろうか?サマゴン村にも小さくて毛がふさふさした犬が数匹いて、ぼくのらのキャンプサイトによく遊びにきていた。もしかしたらメスナーの時代にポカラからやってきた犬の末裔かもしれないな、と思うと感慨深い。