『ヘディン中央アジア探検紀行全集4・5 トランスヒマラヤ 上・下』スヴェン・ヘディン 

  • 『ヘディン中央アジア探検紀行全集4・5 トランスヒマラヤ 上・下』
  • スヴェン・ヘディン(著)/福田宏年(訳)
  • 白水社


部下たちはめいめい羊皮の暖かい帽子をかぶっているが、さらに屠殺した羊や、射止めた猟獣の毛皮を寝具の下に仕立てる。だが、冬の寒さが去るや、糧食袋が掛けぶとんになる。いつも徒歩の彼らは、すぐラダク製のやわらかい長靴を減らし、常に底を取りかえなければならない。そのためには、毛皮の切れっぱしが必要だが、毛の生えているほうを内がわにする。
 栗毛の仔犬パピーのために、部下たちはフェルトの外套をぬって、夜寒むに着せてやる。夜の服装で散歩するこの仔犬は、爪先きで立ったかと思うと、すぐ倒れる。それがまったく滑稽そうに跳ねまわる!

上巻 P134 上段うしろから4行目~

へディンはスウェーデンの探検家であり地理学者である。『さまよえる湖』を読んでいつか楼蘭に行ってみたいと思っているが、まだそれはかなっていない。昔の探検記の面白さは、何を成し遂げたかではなく、そのディティールにあるとぼくは思う。




羊飼いの主人があわれた。彼は一頭の羊、バター、醗酵ミルク、さらに一袋のたばこを売ってくれたが、幸いだった。たばこが部下たちにもっともよろこばれたのは、最近彼らがくゆらしたのは《やく》の糞だったからだ!


タバコの代わりにヤクの糞をくゆらすとは……。ここナムチェで朝食に出てくるバターは無塩バターである。日本で、バターをパンに塗って食べたときのような味は、ない。無塩バターはまだいいが、時々ヤクの乳のバターも出てきて、それは臭みが強くて、あまりうまいとは思えないものだ。いずれにせよ、クンブーでは乳製品はとても大切な食料の一つである。


しばらくまえからろうそくの燃えさしを集めさせていたが、いま、この長さのまちまちなものが四一本ある。わたしはテントのまんなかに箱をひとつ据え、そのうえにろうそくをともした。中央にいちばん長いのを、数本立て、他は隅にゆくにしたがって、小さくなる仕組みだ。これがわれわれのクリスマスツリー! 灯がいっせいにともされると、テントの前の小部分がはねかえされた。そとに待期させられていたラダク人の集団から驚異のつぶやきがざわめいてくる。すると、やわらかく低迷する声で、歌がきこえはじめた。それはこの厳粛な瞬間をわすれさせるものだった。ゆらめくろうそくのたわむれを、じっと眺めながら、この聖なる夜が、一刻一刻ながれゆく思いにひたる一同だった。(中略)キリスト教のクリスマスに合流するラマ教の賛美歌!


何とすばらしい軍団! それは、ラダクから遠征してきたルンペンさながらの服装の二五人の男ども、瘠せた一〇頭の駄獣、ほぼ二〇頭の、しじゅう追いまわされる《やく(傍点)》! それでいて、なお幸福なわたし! セラ・ラ峠で、トランスヒマラヤにたいする最初の凱旋をあげた今のわたしに比べれば、ユグルタ国との戦いを勝ちとったマリウスといえども、より以上の誇りは感じなかっただろう。