• 20090422

    石川直樹連続トークセッションvol.2 その1

 
3月20日にジュンク堂新宿店で行われた、
石川直樹連続トークセッションvol.2。
今回から全5回にわたってその模様を掲載していきます。

ゲストは、サバイバル登山家の服部文祥さんでした。
石川さんと服部さん、共にそれぞれの登山表現を先端で追究するお二人からは、どんなお話が聞けたのでしょうか?
 
 

第1回 登山家にとっての富士山

 
 

石川:今日は連続トークセッションの第2回目ということで、
前回の華恵ちゃんに続いて服部文祥(はっとり・ぶんしょう)さんにお越しいただきました。
 
服部:よろしくお願いします。
 

この方が服部さんです。実に、山の男です。
 
石川:服部さん、まずは自己紹介していただけますか?
 
服部:えーっとですね。
「岳人」という山登りの雑誌の編集員をしておりまして、それでですね、できるかぎり装備や食料を山に持ち込まずに、長く山を登るという、そういう登山をしております。
 
石川:服部さんとは2000年ぐらいに初めてお会いして、それからちょこちょこいろんな所で会っているんです。「岳人」で僕のページを担当してもらっているのも服部さんです。服部さんは、『サバイバル!:人はズルなしで生きられるのか』(ちくま新書)と、『サバイバル登山家』(みすず書房)という著書をお持ちです。
 
服部:石川くんは「岳人」でリレー連載をやっているんですが、僕のことを書いてくれた号があって。
(その号の「岳人」を取り出す)
この写真は、僕が銃を構えているのを石川くんが撮ったものです。
僕は山梨県で鉄砲猟をやってるんですけども、石川くんがそれを見たいということで、一緒に行ったときの記事ですね。
この時は結構面白いことがありました。
 

こちらがその記事です。(山岳雑誌「岳人」(東京新聞出版局)08年4月号より転載)
 
石川:僕以外の皆さんは鉄砲うちで、僕はライセンスないから鉄砲持てないんで、何か長い木の棒みたいなのを持たされましたよね。
 
服部:あのときはそんなに人が集らなくて。村の人2,3人と、僕と石川くんしかいない状態だったんです。それで人手が足りないので石川くんにもちょっと参加してもらいたいということになり、無線とその木の棒を渡して、「お前そこにいろ、そこには獲物たぶん行かないから」って言って配置についてもらったんです。
 
石川:その猟では、犬を山に放って鹿とか猪を追い出すんですよね。
 
服部:そうそう。“巻き狩り”っていう犬を使う猟なんですけど、放った犬がなんと石川くんの方に行っちゃったんですね。要するに獲物が石川くんがいる方に向って逃げていっちゃったってことなんです。動きから、おそらく獲物は猪じゃなくて鹿みたいだったので、まあ大事にはいたらないだろうと考えつつも、「あー、やばいとこ行っちゃったなー」って思っていたら、石川くんが「犬の声が聞こえるんですけど今どうなっているんですかね」って無線を飛ばしてきて…。
そのタイミングが絶妙で、おそらく石川くんのその一言を聞いて鹿が気取ったんでしょうけど、くるっと向きを変えて僕の方に走ってきたんです。
 
石川:気取るっていうのは?
 
服部:気配を感じるってことかな。おそらく鉄砲用語。
それで、鹿は僕の方に向ってきて、ガサガサ音はするんですが、なかなか姿が見えてこなくて、はっと気付いたときには上の方にいて、撃ったんですけど弾は当らずに逃げられてしまいましいた。あのとき仕留めれていれば…。
 
石川:うん。
 
服部:かっこ悪い思いをしている僕のところに石川くんがやってきて、「今撃ったの服部さんですか? いやー、すごい緊張感でしたね!」って。
 
石川:そうでしたね。ほんとに。
猪や鹿が突進してきたらこれで殴れって言われて、いきなり渡された木の棒持ってびくびくして待ってたらそういう感じだった。
あ、最初に言い忘れてたんですけど、僕今夜の最終便で北海道に行かなきゃいけなくて…。
アイヌの鹿狩りを取材しに行くんです。
それでここに登山靴もザックも一緒に持ってきているんです。
なので、ちょっと早めにトークセッションをおいとまするかもしれません。
すいません。
それで、今日は富士山の話がメインのテーマなんですけど。
 
服部:富士山の話をすればいいの? 俺が?
 
石川:うん。
 
服部:うーん。今日は僕、登山者の代表としてゲストに呼ばれたと思うんですけど、富士山というのは我々登山者にとって不思議な山なんです。
はっきり言って登山対象としては特に価値がない山です。
 
石川:服部さんの登山者代表っていうのは、登山愛好家とかそういうレベルの話ではなくて、登山家の、それもトップクラスの登山家代表としての声っていうことですよね。
 
服部:うん。登山者にとってどういう山に価値があるかっていうと、かっこいい壁があったり、かっこいい尾根があったりするような、そういう山に価値があるんですけども。
じゃあ富士山に登らないかって言ったら、おそらく日本の他の山より沢山登ります。
富士山の標高が我々にとってすごい魅力的なんですね。
ものすごく高い山に行く前には、酸素の薄い状態と低圧の状態に体を慣らさなきゃいけないんですけれども、それに最適な高度が4000メートル前後なんです。それで、実際高い山に行く前には毎週のように富士山に登るということがあります。
 
石川:K2に登られた時はどうでしたか?
ちなみにK2というのは世界第2位の高い山で、簡単に言っちゃえばエベレストなんかよりも登るのが難しい山です。だから登った人はすごい。
*K2:中国、パキスタンを跨ぐカラコルム山脈の山。標高は8611m。
 
服部:K2に出発する前にも毎週のように5、6回は登ってました。
普通の登り方とは違っていて、太郎坊から入って日帰りで登るんです。
昔から俗説で、一合目と山頂までの往復を日帰りで出来たら、8000メートルまで酸素ボンベの力を借りずに登れるぐらいの体力があるだろうと言われております。
科学的な根拠があるかどうかは知らないですが。
*太郎坊:旧1合目のことです。標高は約1300m。
 

堂々と屹立した富士山です。服部さんは日帰りどころか、たった5時間で登り下りするみたいです。凄すぎます。(写真は写真集『Mt.Fuji』より)
 
服部:僕、以前にポーランドのクルティカと富士山に登ったことがあるんです。
*ヴォイテク・クルティカ。伝説的クライマーです。
 
石川:いまおいくつぐらいですか?
 
服部:おそらくちょうど60才。僕が一緒に富士山登ったときはたしか50過ぎてました。富士山登った後に一緒に温泉行ったんですけど、服脱いだら背筋がバコーって羽みたいに付いてて。クライミング中に落ちても、この羽で飛ぶのかなあって思いましたね。
 
石川:背筋が羽みたいっていいですね。
 
服部:そのクルティカが日本の富士山登って、「大きい山があっていいなあ」ってことをしきりに言ってました
それで石川くんに聞きたいと思ってたことがあるんだけど、その国の最高峰の順位って頭にはいってる?
*ちなみに、クルティカの故郷ポーランドの最高峰はリスイ山で、標高は2499mです。
 
石川:うん?
 
服部:国の最高峰を並べてくの。上から。だからネパールの最高峰はエベレスト。中国の最高峰もエベレスト。その次にパキスタンのK2があって、そのあとがおそらくインドの最高峰カンチェンチュンガっていうふうに。そうした時に、おそらく日本の富士山は30番目くらいになるんじゃないかと思う。
 
石川:そんな上ですか? 富士山。
 
服部:だって8000メートル級の山のほとんどがネパールと中国とパキスタンに入っちゃうから。富士山はたかだか3700メートルくらいなんだけど、その国の最高峰としてはかなり高い方。こういう山をもってるのは日本人のクライマーにとってかなり優位な点が多いのかな、というのが私の感想です。
 
石川:おー、なるほど。
 
 
 
背中に羽の生えた伝説のクライマー、クルティカも認める富士山、ということでよろしいでしょうか?
次回は、お二人の生きるうえでの姿勢が伺える、ちょっと濃いめの内容をお届け致します。お楽しみに!
 


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