第2回:歩くから道ができる

2009年08月10日

 2本の足で歩くのは、どこかへ進むためです。足って実によく出来ているのです。もしカニのように横歩きが標準だったら、どっちが前か悩むし、目のやり場に困ります。
「前へ進め!」
「え、どっちが前ですか」
 こんなことになってしまう。高校生の頃、近所に不思議な青年がいました。僕らは普通「10歩進め」と言われたら、右足左足を交互に出して約10メートル前へ進みます。しかし、その青年は5歩前に進んだら3歩後ろに下がり、再び前に8歩程進んだら6歩下がり……という稀な歩行によって、10歩を何十歩もかけて進むのです。自宅の2階の窓から外を眺めていると、そんな彼をよく見かけました。
 彼のすごい所は、少しずつだが必ず前に進んでいること。時間はかかるが、前へ前へと歩んでいるのです。高校生の時分、「むむ! これはすごい!」と思ってしまいました。世の中の生活は目的を持って歩くことがほとんどであります。場合によっては、目的を達成するために我先にと突き進み歩く必要もあります。
 しかしあの青年の場合、本当の理由はわからないのですが、あの目的のないひたむきな歩行は、何かを楽しんでいるかのようにも見えました。前に進むだけでなく、ついさっき後ろに置いてきた足跡のようなものを辿って後ろに戻り、先に行った自分の背中を追うように、再び前へ進むのです。
 ところで、日常の中でほとんどの人が進んだり戻ったりを繰り返す場所もあります。それは、美術館。美術館では美術品だけでなく、それを鑑賞する人々も「鑑賞」するのは面白いことです。友達と語らいながらゆっくりと歩きながら鑑賞する人、何のために来たのか、小走りで通りすぎる人、絵との距離が近過ぎの人……といろいろですが、上手に鑑賞できている人は、歩行の仕方もうまいと思います。そういう人はたいてい、一枚の絵を前に進んだり下がったり、また進んだりしながら、色んな角度を楽しんでいるのです。
「歩く」と言えば、こんな話もあります。大学時代にバイトをしていたとき、色んな大人の先輩たちがいました。名前は忘れましが、その先輩はよく町を歩き回っていました。とにかく沢山歩くのです。
 ある時、どこかのビルの最上階に行った際、彼はそこから見える風景を眺めながら、「ここは楽しい、かつてあった道がたくさん見えるよ」と言いました。僕には最初意味がわからなかったのですが、こういうことらしいのです。道はもともとそこにある訳ではなく、人が歩いたから、馬が歩いたから、たまたま続けて人々が歩いたからそこが道となる――。
「ほら、あそこのくねっとしている道は、誰かがそうやって歩いたんだよ、ほら見える見える!」とはしゃぐ先輩に少しばかり騙されたような気分でもありましたが、そうやって眺める道は楽しいのです。それ以来、僕もくねっとした道に遭遇すると、周りを見回し、かつての風景や人影を想像したりします。
さあ今日も自分の足で進んで、新しい道を作りましょう!

プロフィール

近藤良平

東京生まれ、ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。振付家・ダンサー。男性のみ学ラン姿でダンス・映像・コントなどを展開する舞台で人気のダンスカンパニー「コンドルズ」主宰。
アジア、中南米をはじめ数多くの海外公演もこなす。第四回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞を受賞。テレビやミュージシャンのPVなどで振付家として活躍する一方、横浜国立大学、立教大学などで非常勤講師としてダンスの指導もしている。また、NODA・MAP公演『THE BEE』で役者としてデビュー。バンド「THE CONDORS」ではベースを担当。

ひとこと・ふたこと