第12回:にんげんの動き

2010年02月15日

 うちの周りでは家の建て直しがたくさん行われています。想像するところ、築4、50年くらいの建物なのでしょう。すべてを壊して更地から建て直す場合もありますが、上手にメンテナンスしてまた新品建築のように甦るものもあります。
 しかし、我々人間の場合はそうもいきません。40才の人はどうあがいても築40年なのです。そりゃあボロくもなりますね。考えようによってはよく頑張っております。我ながら親への感謝と自分への感謝も感じる次第です。
 さて、先日ふと思いました。我々は1日起きてから寝るまでを1サイクルにした時、どれだけの「からだの動き」を繰り返しているのだろうか、と。まずは寝た姿勢から上半身をムクっと起こす。さらに床に立ち上がり、そのままトイレのノブの方へ引き寄せられたり、椅子に腰掛けたりします。細かく挙げたらきりがないですが、その短い間にもアラーム時計を止めたり、電気をつけたり、外の天気を眺めたり、スリッパを探したりと、からだ的には大忙しであります。
 試しに電車の中のにんげんの行動を動詞で箇条書きしはじめたら、池袋から渋谷の間だけでも200個くらいの「動き」が出てきました。
 僕らは何年もの間繰り返してしまう動きを「日常の動き」と呼んでいます。日常の動きがはもともとあったのではなく、繰り返すことによってからだが記憶した動きです。以前にも触れましたが、正座の動きはいまや若者のなかではあまり見られません。きっと、正座の位置から立ち上がるまでのからだの動きは、もはや日常のものではありません。もう200年も経てば、にんげんは正座から立ち上がれなくなるかもしれません。
 電車の中で挙げた動きの中で、減ってるなあと思ったものを列挙します。「踏ん張る」「しゃがむ」「落ち着く」「偉ぶる」「叱る」「飛び上がる」「涙が出る」「想像する」「ぎくしゃくする」「べたべたする」「立ち尽くす」「身を引く」「コケる」「人を支える」「ウィンクする」「もがく」「大きな声で呼ぶ」「口笛を吹く」「悔しがる」「振り返る」「息を飲む」――まあこれは順不同で思いつきです。
 こうやって書き出すと面白いです。個人個人でその傾向はもちろん変わるでしょうし、動きには静的なものもあれば動的なものもある。静的な動きはどちらかと言えば理性的、動的なものは感情を含み、状況によってはネガティブで凶暴なものにもなります。
 動きは、にんげんの歴史そのものと言えます。少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、にんげんがからだを保有する以上、自分がしている動きくらい責任を持ちたい所です。ましてや築40年になろうが自分が保有する唯一のからだ、そして動きなのです。まだまだ知らないにんげんの動きもあるはずなのです。

プロフィール

近藤良平

東京生まれ、ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。振付家・ダンサー。男性のみ学ラン姿でダンス・映像・コントなどを展開する舞台で人気のダンスカンパニー「コンドルズ」主宰。
アジア、中南米をはじめ数多くの海外公演もこなす。第四回朝日舞台芸術賞・寺山修司賞を受賞。テレビやミュージシャンのPVなどで振付家として活躍する一方、横浜国立大学、立教大学などで非常勤講師としてダンスの指導もしている。また、NODA・MAP公演『THE BEE』で役者としてデビュー。バンド「THE CONDORS」ではベースを担当。

ひとこと・ふたこと