株式会社 家族2

犬と猫

 我が家で生まれた猫のムー君はあほだったため、最後までごはんの場所を覚えることはなかった。そして異常に発達した嗅覚を頼りにうろうろと部屋を探し回りながら毎回の食事にありついていた。そんなあほでかわいいムー君が死んだときは家族の誰もが悲しんだ。たくさん動物のいる我が家では大仰な葬儀はしないが、動物愛護施設に引き取りにきてもらう。スーパーから程よいサイズのダンボールを見繕ってきた母が、泣きながらムー君の周りをきれいな花で埋めてゆく。その後について、父と私と妹で花を添えると、最後にそれぞれの思いを書いた手紙を入れてダンボールを閉じた。迎えに来た愛護施設のおじさんが、ムー君を入れたダンボールを車に入れるとき、ほかの動物たちの入ったダンボールが見えた。“有田みかん”だとか“高知のニラ”だとかを見ると、どの家庭も箱を選んでいる余裕の無さがうかがえた。様々な野菜や家電製品の箱を見て笑いそうになる気持ちを堪えながら母と妹を見ると同じく笑いをこらえていたが、父の表情は真剣だった。
 最後におじさんが深く頭を下げ車が出てゆく瞬間は、みんなで手を振りながらやっぱり涙が出てしまう。車が見えなくなるまで「ムー君ありがとう!」「ムー君バイバイ!」と私たちは叫んだ。ひとしきりムー君への思いを伝えたあと、みんなで家に入るとき、母と私に耳打ちした妹は「私、内緒で父さんの手紙見たら“ブチさようなら”って書いててん」と言った。各家庭で選ばれたダンボールもそれぞれひどいものであったが、父の手紙がとどめとなって私たちの涙は一瞬にして悲しみから笑いの涙へと転向した。父さん、ブチはもうとっくに死んでるし、犬やで。
 我が家の大切な動物たちが死んでゆくのは辛い。それでもそのときは必ず訪れて、やっぱり死んでゆくのだし、せめて私たちは彼等の最後の日に父がこっそり入れる手紙の中身を盗み見るしかない。

山田かおり

題字:山田まき 絵:山田ひでお

プロフィール



山田かおり

1974年、兵庫県尼崎市生まれ。京都芸術短期大学(現・京都造形芸術大学ファッション科)卒業後、ファッションブランドQFDを立ち上げる。CM、舞台、ファッション誌に衣装提供。2010年、QFDウェブサイト内のブログをまとめたエッセイ『株式会社 家族』(弊社刊)を出版。

ひとこと・ふたこと

9月3日(土)、4日(日)の二日間、山田かおりさんの手掛けるファッションブランドQFDの、久しぶりの展示会が開かれます。どなたでも入場できます。詳しくはHP[ http://bit.ly/q2fBKU ]をご覧ください。初の小説「猫穴」が季刊「真夜中 No.14」に絶賛掲載中!