株式会社 家族2

赤い靴

 未開拓の書店を通り過ぎるとき、ここに私の本があるかどうか気になりながら一度は通過する。けれど気がつくと店内にいる私は、自分の本があれば素人剥き出しで嬉しくなってしまう。自分では直立しているつもりだが、周囲から見る私は笑いながら反復横飛びしている可能性がある。
 自分の本が、いい場所に平積みされているのを見てしまうと、近くにいる書店員さんに「これ私の本なんです」と答えようのない言葉をかけて困惑され、「すみません」と言って雑誌なんかを買って店を出る。私は面倒なことに、なかったらなかったで「ありますか」と聞いてしまう欝陶しい性質だ。
「その本すぐ売れてしまうんですよ」と書店員さんに言われれば、つい嬉しくなって「私のなんです」と言わなくていい言葉が口を突いて出、いずれにせよ書店員さんを困惑させてしまう。
 だから書店には入らないようにした。入りたくない。でも気がついたときには、すでに店内にいるから不思議だ。
 そのうち「止めて」と言いながら赤い靴を履いて回りながら私は店内に入って行くかもしれないが、周りから見れば私の足元はよくわからないメーカーのサンダルで、今年の夏はきちがいみたいに暑かった。

山田かおり

題字:山田まき 絵:山田ひでお

プロフィール



山田かおり

1974年、兵庫県尼崎市生まれ。京都芸術短期大学(現・京都造形芸術大学ファッション科)卒業後、ファッションブランドQFDを立ち上げる。CM、舞台、ファッション誌に衣装提供。2010年、QFDウェブサイト内のブログをまとめたエッセイ『株式会社 家族』(弊社刊)を出版。

ひとこと・ふたこと

9月3日(土)、4日(日)の二日間、山田かおりさんの手掛けるファッションブランドQFDの、久しぶりの展示会が開かれます。どなたでも入場できます。詳しくはHP[ http://bit.ly/q2fBKU ]をご覧ください。初の小説「猫穴」が季刊「真夜中 No.14」に絶賛掲載中!