第3回:前略おふくろ様と僕

2009年08月25日

 以前、撮影所のトイレで小便をしているとき、なんとなく隣を見たら、あのショーケンこと萩原健一さんと連れション状態にあることに気付きました。目が合ったのですが、僕は接客業のバイトが長いためか人と目が合うとお辞儀をする癖があり、そのときもショーケンについお辞儀をしてしまいました。すると、ショーケンはちゃんとお辞儀を返してくれました。
 ショーケンのお辞儀と言えば、僕にとっては「前略おふくろ様」のサブちゃんです。「前略~」は倉本聰作品で1975~1977年の間にシリーズIとIIが放送されたドラマで、主人公のサブは東京下町の料亭で板前の修業をしており、故郷の山形にいる認知症の母親から時々届く少し変わった手紙に、一生懸命返事を書きます。そういうサブと周囲の人々との触れ合いを描いた人間ドラマです。
 このドラマに出てくる人たちは皆、不器用で見栄を張り、情けなく、小さいことにこだわり、凄く弱いのですが、みんな心に美学を持っており、すべての出来事が身につまされます。
 このドラマを見た後、死んだお母さんにどこからか僕の生活を見られているような気持ちになります。時世を勉強しようとニュースを見ていると、つい女子アナばかり見てしまい、マズイと思いチャンネルを変えても、また画面に表れるエロい女子アナで自分のポコチンを握ろうとしてしまう。そんなとき、お母さんの視線を感じ、後ろめたくなってこう言ってしまいます。「誤解はやめてください、お母さん。僕はニュースを見ているうちに今の時代に起こっていることに怒りを覚え、それを垂れ流す女子アナに抗議しようとポコチンを執ったのです」。
 つい、どうしようもない見栄を張ってしまうのです。

 前略おふくろ様、以前、渡辺謙作監督の映画『フレフレ少女』(2008)の撮影中のことです。共演させていただいた、事務所の先輩で俳優の鈴木晋介さんと俳優の中沢青六さんが飲みに誘ってくれました。お二人はこうして時々僕を飲みに誘ってくださいます。とてもお世話になっており、尊敬している先輩方です。
 その翌日、撮影現場で渡辺監督と会話している中で昨日の飲み会のことが話題に上がりました。監督に何気なく「おごってもらった?」と聞かれたので、僕は「お二人が多めに払ってくれて、僕は少ししか出しませんでした」とついありのまま話してしまいました。
 後日、鈴木さん、中沢さん、渡辺監督、僕の4人でタクシーに乗る機会があり、そのときに渡辺監督が例の飲みに行った件について鈴木さんに「年上なのになんでおごらないんですか!」と少し強めに言われました。
 僕は告げ口したようで、鈴木さんと中沢さんの顔が見られませんでした。そんな僕を鈴木さんが「飲みに行こう」とまた誘ってくださったのは次の日のことです。
 前略おふくろ様、鈴木さんはやはり尊敬できる先輩です。僕が鈴木先輩を立てきれず、先輩は注意されてしまった。それなのに僕を責めずに、何も無かったようにまた誘ってくれる。僕にはまだまだ真似できません。先輩は心の広い方です。

 その日の飲み代は鈴木先輩が出してくれました。僕がそんな鈴木先輩の背中を見ながら「ご馳走様でした」と言うと、先輩は言いました。「明日の朝、現場へ行ったら真っ先に監督に言うように」。
 それ以来、鈴木晋介さんにずっとご馳走してもらっております。まだまだポコチンでしか見栄を張っていない僕ですが、鈴木晋介さん、中沢青六さん、渡辺謙作さんという見栄というよりも美学を持った先輩方がいて、とても光栄です。 
「前略おふくろ様」というドラマは、このように不器用だけど素敵な男達の、素敵な美学が見られます。

 追伸、撮影所のトイレでショーケンのポコチンは見られませんでした。 

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プロフィール



宇野祥平

1978年、大阪府生まれ。主演した短篇映画『女』『鵜野』(両作とも監督・前田弘二/05)がひろしま映像展2005でグランプリと演技賞を受賞し注目を浴びた。以降『オカルト』(監督・白石晃士/09)『超・悪人』(監督・白石晃士/11)等の映画に主演。その他の映画出演作に『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(監督・松岡錠司/06)『フレフレ少女』(監督・渡辺謙作/08)『くりぃむレモン 旅のおわり』(監督・前田弘二/08)『ウルトラミラクルラブストーリー』(監督・横浜聡子/09)『ゲゲゲの女房』(監督・鈴木卓爾/10)『NINIFUNI』(監督・真利子哲也/11)『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』(監督・入江悠/11)『婚前特急』(監督・前田弘二/11)『ハラがコレなんで』 (監督・石井裕也/11)『キツツキと雨』(監督・沖田修一/12)『苦役列車』(監督・山下敦弘/11)『黄金を抱いて翔べ』(監督・井筒和幸/12)『横道世之介』(監督・沖田修一/13)など多数。『舟を編む』 (監督・石井裕也)、『ぼっちゃん』(監督・大森立嗣)が現在公開中。テレビドラマには『深夜食堂』(09、11/TBS)に準レギュラーとして、『D×TOWN~太陽は待ってくれない~』(12/TX)では準主役として出演。BeeTVにて配信中のドラマ『午前3時の無法地帯』にもレギュラー出演している。舞台においても『真夜中vol.3鳥ト踊る』(作・演出:ノゾエ征爾/11)、あうるすぽっとプロデュース『季節のない街』(作・演出:戌井昭人/12)などに出演。

ひとこと・ふたこと

宇野さんが紹介した映画『自由が丘で』は2014年12月13日(土)シネマート新宿ほかにて全国順次公開です。