第4回:おばあちゃんとクリント・イーストウッド

2009年09月09日

 僕のおばあちゃんは、クリント・イーストウッドでした。
 クリント・イーストウッド監督の『ミスティックリバー』(2003年)という作品があります。幼馴染み三人を、ある殺人事件を通して描いた作品です。サスペンスでも男くさい人間ドラマでもなく、この映画は「夫婦の教本」だと僕は思います。一見男達の物語のようで、しかし男達の嫁達が物語の運命を大きく左右し、また決定する物語なのです。
「ええ女と一緒にならなホンマ知らんで」と、イーストウッド監督はこの作品で言っていました。
 僕のおばあちゃんも口癖のように、「ええ女と一緒にならなアカン」と言っていました。「年上はお前をガリガリにさせるからアカン、年下は毒盛って財産とるからアカン、干支でタツ・トラ・ヘビは気が強いからアカン、ボインもアカン」と駄目なところばかり言うので、「じゃあ、どんな女の人がええのん?」と聞いても無視。「おばあちゃんの言う通りにしたら誰も付き合ってくれへんで」と言ったら、「アンタはええ男やから女はみんな狙ってる。気ぃつけてええ女と一緒にならなアカン」とそればっかりでした。
 学生の頃、女の子と一緒に歩いているのを見られた時も、「あのサルはやめとけ」と後から言われケンカになり、泣きながら「ええ女とつき合わなアカン」とまた言われ、「見た目だけでサルはないやろう。おばあちゃんも乳出したまま植木に水やってるやろ」と言い返すと、「アンタはええ男や、男前や、ええ女と付き合え」とやはりそれです。
 不思議なもので、言われ続けていると段々と自分を男前なんやと思うようになっていきました。けれど結局、おばあちゃんの言う“ええ女”も“ええ女と一緒にならなアカン”も理解しないまま時が経ち、東京で暮らすようになり、おばあちゃんの教えも忘れていった頃、『ミスティックリバー』を観たのです。
 イーストウッド監督はアジアの田舎のそのへんのおばあちゃんと同じ教えを再び僕に、しかも強い説得力で突きつけてきたのです。映画の中でショーン・ペン演じる旦那に嫁が「あなたは私達の王様なのよ」と言うところがあります。おばあちゃんも、「アンタはええ男や、北大路欣也や」と僕に言っていました。
『ミスティックリバー』の余韻も残る頃、おばあちゃんと『ミスティックリバー』を一緒に観ようとDVDを持って実家に帰りました。デッキにセットし再生したのですが、何分か観た後、おばあちゃんが無言でDVDを取り出し、ぺ・ヨンジュンのドラマと入れ替えました。
 横にいた親戚のおばちゃんが、「おばあちゃん、ぺ・ヨンジュンのドラマ何回観ても初めて観たと思って泣くねんで」と言いました。
 その時、僕はおばあちゃんの好きな歌を思い出しました。
「♪知らず知らず歩いて来た――」
 あーあー川の流れのように。

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プロフィール



宇野祥平

1978年、大阪府生まれ。主演した短篇映画『女』『鵜野』(両作とも監督・前田弘二/05)がひろしま映像展2005でグランプリと演技賞を受賞し注目を浴びた。以降『オカルト』(監督・白石晃士/09)『超・悪人』(監督・白石晃士/11)等の映画に主演。その他の映画出演作に『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(監督・松岡錠司/06)『フレフレ少女』(監督・渡辺謙作/08)『くりぃむレモン 旅のおわり』(監督・前田弘二/08)『ウルトラミラクルラブストーリー』(監督・横浜聡子/09)『ゲゲゲの女房』(監督・鈴木卓爾/10)『NINIFUNI』(監督・真利子哲也/11)『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』(監督・入江悠/11)『婚前特急』(監督・前田弘二/11)『ハラがコレなんで』 (監督・石井裕也/11)『キツツキと雨』(監督・沖田修一/12)『苦役列車』(監督・山下敦弘/11)『黄金を抱いて翔べ』(監督・井筒和幸/12)『横道世之介』(監督・沖田修一/13)など多数。『舟を編む』 (監督・石井裕也)、『ぼっちゃん』(監督・大森立嗣)が現在公開中。テレビドラマには『深夜食堂』(09、11/TBS)に準レギュラーとして、『D×TOWN~太陽は待ってくれない~』(12/TX)では準主役として出演。BeeTVにて配信中のドラマ『午前3時の無法地帯』にもレギュラー出演している。舞台においても『真夜中vol.3鳥ト踊る』(作・演出:ノゾエ征爾/11)、あうるすぽっとプロデュース『季節のない街』(作・演出:戌井昭人/12)などに出演。

ひとこと・ふたこと

宇野さんが紹介した映画『自由が丘で』は2014年12月13日(土)シネマート新宿ほかにて全国順次公開です。