第6回:第1回ナイスカップル認定

2009年10月07日

 僕はファレリー兄弟の映画が大好きです。どれも傑作でいつも公開を楽しみにしています。最近、『メリーに首ったけ』(1998年)を10数年振りに観ました。メリーに夢中になった男達の純粋な恋心とストーカー行為を描いている映画です。
 さて、『メリーに首ったけ』が公開されていた10数年前、時同じくして大阪。ここでも純粋な恋心と純粋さ故の迷惑行為が繰り広げられていました。
 20歳そこそこの僕は同級生の友人ダイ君(仮名)に呼ばれ、待ち合わせ場所へと向かっていました。着くとダイ君はすでに来ており、「ヤスコ(仮名)に携帯取られたから取り返しに一緒に来てくれへんか」と言いました。僕は断りましたが、ダイ君は「いや、二人きりだと喧嘩になってまうから一緒にきてや」とくいさがるので、結局、ダイ君の車に乗って携帯を取り返しに出発しました。
 1時間後、車の運転席にはダイ君、助手席にはヤスコ、後部座席には僕がいました。「携帯返せや」と言うダイ君に、「嫌や」とヤスコは中々言うことを聞きません。僕は詳しい事情がわからず、二人の口論をただ見ていました。すると次第に口論は激しいものとなり、ダイ君がヤスコを車外に連れ出しさらに激化、ヤスコはダイ君にハイキックを何回も打ち始めました。
 車の中から見ていた僕は、「止めようかどうか、でもハイキックしているのは筋肉ムキムキのダイ君ではなく女のヤスコの方だし、別に止める必要もないのか」とただただ成り行きを見守っていました。
 やがて二人は、息を切らして車内へと戻ってきました。どうやらダイ君は携帯を取り戻したようで、無事解決したようでした。ああ、やっと解放される、と思った矢先、
「乗んな」とダイ君がヤスコを車から蹴り出しました。車に乗ろうと這い上がるヤスコ、蹴るダイ君。しがみつくヤスコ。蹴るダイ君――そんな二人の攻防を見ながら、僕は二人の出会いを思い出していました。
 ダイ君の誕生日、友人のケン君と僕との三人でナンパをしていた時のことです。ダイ君は「あれナンパしよう」とブサイクな女の子二人組を指しました。ケン君と僕は反対しました。僕もケン君も人の顔をとやかくは言えませんが、反対しました。ダイ君の顔は五木ひろしか尾藤イサオにそっくりで、体はプロレスラー、いつもセカンドバックを小脇に抱えていました。女の人の選び方も顔と服装同様、少し変わっていたのかもしれません。ダイ君は僕らの反対を押し切り、ナンパに行ってしまいました。僕ら二人は仕方がないので帰ることにしました。
 そして帰り道、僕らが歩いていると、後ろからクラクションを鳴らされました。すぐ横をゆっくりと通り過ぎる車を見ると、ダイ君のホンダのシビックでした。窓越しに、凄い笑顔のダイ君と、隣に座るブサイクの一人、ヤスコが見えました。
 それから数年後、その時と同じ車、同じ席で同じ二人がつかみ合いの喧嘩を延々と繰り広げるところを、僕は見ていたわけです。
 結局その日はヤスコを家まで送り届けました。降りる直前、ヤスコはダイ君から再び携帯を奪って家の中へと逃げ込んでゆきました。もう深夜でしたが、ダイ君もヤスコの実家へ乗り込みました。中で何が起こっているか僕にはわかりません。
 車の中で「俺なにしてるんやろ」と思っていると、ヤスコの家の2階から携帯が降ってきました。しばらくしてダイ君が出てきて携帯を拾い、車に戻ってきました。どうやら、争いは終結を迎えたようです。僕はここにきてやっと、ヤスコが携帯をあんなにしつこく取ろうとした理由をダイ君に聞きました。ダイ君によると、ダイ君の浮気がバレ、その女に二度と連絡できないよう、ヤスコは必死に携帯を奪い出したそうです。ヤスコはダイ君に首ったけだったのです。
『メリーに首ったけ』を久しぶりに観て、過激で下品なネタが多いにもかかわらず、必死なあまりねじ曲がってはいるけど純粋な心にやはり感動しました。ファレリー兄弟の映画はどんな人にも笑いと感動を与えてくれるのです。
 あれから10数年以上経ちますが、ケン君によるとダイ君とヤスコはまだ付き合っているそうです。

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プロフィール



宇野祥平

1978年、大阪府生まれ。主演した短篇映画『女』『鵜野』(両作とも監督・前田弘二/05)がひろしま映像展2005でグランプリと演技賞を受賞し注目を浴びた。以降『オカルト』(監督・白石晃士/09)『超・悪人』(監督・白石晃士/11)等の映画に主演。その他の映画出演作に『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(監督・松岡錠司/06)『フレフレ少女』(監督・渡辺謙作/08)『くりぃむレモン 旅のおわり』(監督・前田弘二/08)『ウルトラミラクルラブストーリー』(監督・横浜聡子/09)『ゲゲゲの女房』(監督・鈴木卓爾/10)『NINIFUNI』(監督・真利子哲也/11)『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』(監督・入江悠/11)『婚前特急』(監督・前田弘二/11)『ハラがコレなんで』 (監督・石井裕也/11)『キツツキと雨』(監督・沖田修一/12)『苦役列車』(監督・山下敦弘/11)『黄金を抱いて翔べ』(監督・井筒和幸/12)『横道世之介』(監督・沖田修一/13)など多数。『舟を編む』 (監督・石井裕也)、『ぼっちゃん』(監督・大森立嗣)が現在公開中。テレビドラマには『深夜食堂』(09、11/TBS)に準レギュラーとして、『D×TOWN~太陽は待ってくれない~』(12/TX)では準主役として出演。BeeTVにて配信中のドラマ『午前3時の無法地帯』にもレギュラー出演している。舞台においても『真夜中vol.3鳥ト踊る』(作・演出:ノゾエ征爾/11)、あうるすぽっとプロデュース『季節のない街』(作・演出:戌井昭人/12)などに出演。

ひとこと・ふたこと

宇野さんが紹介した映画『自由が丘で』は2014年12月13日(土)シネマート新宿ほかにて全国順次公開です。