第23回:ローラーガールズ・ダイアリー

2011年02月06日

 2010年公開のドリュー・バリモア監督の『ローラーガールズ・ダイアリー』という映画があります。
 エレン・ペイジ演じる主人公の少女が、ローラーゲームと出会うことから物語は始まります。ローラーゲームとは、ローラースケートを履いて、トラックの中で5人のチーム2組が、相手チームと体を衝突させながら得点を競う競技です。少女は母親、父親、親友、恋人、チームメイト、色んな人との衝突から成長していくのです。
 僕はこの映画のどこをとっても感動してしまうのですが、中でも少女とその家族の姿に心を打たれました。

 僕の家族の姿というのは非常に曖昧です。
 母親を8歳の時に亡くしてしまい、思い出も大分曖昧です。年々曖昧さが増しているように思います。でも一つだけはっきりとした母との思い出があります。それは5歳の時の北海道旅行のことです。
 小さいながらに、小樽の街や札幌ビール園、時計台やフェリーでしたビンゴ大会、夏なのに寒いと思った半袖、ふざけてかけたサングラスまで覚えているのです。
 正月、大阪に帰った時の事です。親戚が大勢集まっていました。思い出話くらいしか共通の話題はなく、僕も数少ない鮮明な北海道旅行の思い出話をしました。
 すると母の妹である叔母が「あ、ちゃうで」と言いました。
「アレ、私といったんやんか」
「エ? ちゃうちゃう、北海道やで? オカンと5歳ぐらいの時……」
「そうそう、アンタ5歳ぐらいやわ」
「いや、ちゃうよ……。小樽とか時計台とか行ったやつやで……」
 僕は少し必死になりました。ただ一つはっきりとした母との旅行の思い出なのです。
 しかし叔母が言うには、姉妹と僕で行くはずの旅行に、母は急用で行けなくなり、急遽、叔母と僕だけで行く事になったらしいのです。
 その説明を聞いてもまだ僕は信じられず、実は2回、俺は北海道旅行をしたことがあるのか? と自分を疑ってみましたが、やはり1回しか行った記憶はなく、叔母が何らかの事情で嘘をついているんじゃないのか? と疑い、叔父や呆けたおばあちゃんにまで聞いてみましたが、叔父は「知らんわ」と言い、おばあちゃんは小型犬を蹴るのに夢中で答えてくれませんでした。
 僕は涙目になっていたかもしれません。しつこく叔母にあれこれ細かい質問をしましたが、「ほら、あれやでフェリーで……」
「そうそう、ビンゴしたな」
 と叔母が言ったところであきらめました。
 僕の家族の姿として綴っていたものに間違いがあったのです。
 次の日、少し悲しいまま、同じく大阪の姉の所へ行きました。姉はダンナと子供3人一軒屋で暮らしており、みんなで墓参りをしてから、その家で古い姉のアルバムを見ました。姉が僕の小さい頃の写真があるから持っていっていいと言ってくれたのです。
 僕は姉とダンナとガキがwiiでハシャグ中、アルバムをめくりました。姉と遊ぶ僕、母と手をつなぐ僕、僕はどの写真を撮った時も覚えていませんが、写真には家族の姿が写っていました。
 僕は少しずつ昨日のショックが和らいでいくのを感じました。横で、wiiに飽きた姪っ子が僕のもらう写真をより分けるのを手伝ってくれていました。姪は「これ誰〜?」と僕に聞きながら楽しそうでした。「○○オバちゃんやで」などと姪を膝に抱きながら僕が答えていると、「誰〜?」と聞かれた中に、全然知らんオッサンになついている僕の写真がありました。
「知らん」と僕は言いました。
 姉の家を出て、電車に乗ってから知らんオッサンの写真をもう一度見ました。やはり全然覚えがなく、覚えがあったとしても僕はもう自分の記憶など頼れません。
 しかしオッサンの眉毛と目は明らかに僕に似ていました。
 実は僕は本当の父親の顔というものを一切知りませんでした。会ったこともないと思っていました。でも僕の記憶は曖昧で、写真にはハッキリと写っているのです。

 僕は『ローラーガールズ・ダイアリー』の家族の姿に心を打たれました。少女、母親、父親がそれぞれの問題に衝突しながらも、やはり絆の深い、共に戦っていくチームであるからです。
 僕は勇気づけられます。
 家族は思い出や記録によるものだけではなく、一緒に戦う人達なのだと思えたからです。
 僕はこれからも主人公の少女のように清々しく明日を見つめることができそうです。

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プロフィール



宇野祥平

1978年、大阪府生まれ。主演した短篇映画『女』『鵜野』(両作とも監督・前田弘二/05)がひろしま映像展2005でグランプリと演技賞を受賞し注目を浴びた。以降『オカルト』(監督・白石晃士/09)『超・悪人』(監督・白石晃士/11)等の映画に主演。その他の映画出演作に『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(監督・松岡錠司/06)『フレフレ少女』(監督・渡辺謙作/08)『くりぃむレモン 旅のおわり』(監督・前田弘二/08)『ウルトラミラクルラブストーリー』(監督・横浜聡子/09)『ゲゲゲの女房』(監督・鈴木卓爾/10)『NINIFUNI』(監督・真利子哲也/11)『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』(監督・入江悠/11)『婚前特急』(監督・前田弘二/11)『ハラがコレなんで』 (監督・石井裕也/11)『キツツキと雨』(監督・沖田修一/12)『苦役列車』(監督・山下敦弘/11)『黄金を抱いて翔べ』(監督・井筒和幸/12)『横道世之介』(監督・沖田修一/13)など多数。『舟を編む』 (監督・石井裕也)、『ぼっちゃん』(監督・大森立嗣)が現在公開中。テレビドラマには『深夜食堂』(09、11/TBS)に準レギュラーとして、『D×TOWN~太陽は待ってくれない~』(12/TX)では準主役として出演。BeeTVにて配信中のドラマ『午前3時の無法地帯』にもレギュラー出演している。舞台においても『真夜中vol.3鳥ト踊る』(作・演出:ノゾエ征爾/11)、あうるすぽっとプロデュース『季節のない街』(作・演出:戌井昭人/12)などに出演。

ひとこと・ふたこと

宇野さんが紹介した映画『自由が丘で』は2014年12月13日(土)シネマート新宿ほかにて全国順次公開です。