第11回:戦地メンタルホステス

2010年01月13日

 東京に出てくる前、2カ月間程、大阪の宗右衛門町にある「バラード」という高級クラブでウェイターのバイトをしていました。なるべく早く上京資金が必要だったことと、綺麗なホステスと関係を結べるんじゃないかというヨコシマな気持ちを持ったことが、初めて水商売で働くきっかけでした。
 働いてみると、高級クラブだけあって、賃金も高くホステスも綺麗な人ばかりでした。特に“カオルさん”というホステスが綺麗でした。井川遥にとっても似ていました。カオルさんは昼間も働いているらしく、仕事帰りにまっすぐ店に来るため、他のホステスよりも早く出勤していました。僕は新米だったため、他のウェイターよりも早く店に来て開店準備をしていました。そういう事情があって、カオルさんと僕は5~10分程の短い時間ですが、二人きりで話すようになりました。そして次第に、「僕と話したいからカオルはわざわざ早く店に来てんちゃうか」と思うようになりました。
 またカオルさんは営業中、ウェイターは他に何人もいるのに、必ず僕に、客に出してほしい物をこっそりと囁いてきました。客に聞こえぬように、声に出すか出さないかの囁きで井川遥に似た唇だけで僕の目を見て「チョコレート」と伝えてきたのです。やらしく。そして、カオルさんは例の二人きりのお話の時間に「私、しょうへい君と付き合っても全然いいねんで」と言ったこともありました。

 シルベスター・スタローン監督・脚本・主演の『ランボー 最後の戦場』という作品があります。スタローンの代表作「ランボーシリーズ」で、スタローンが初めて自ら監督した作品です。今現在も内戦が続くミャンマーが舞台で、軍事政権と戦うカレン族にボランティア支援にやってきたNGOメンバーが政府軍に拘束され、その救出にランボーと数名の傭兵達が向かう、というストーリーです。
 銃ってこんなに破壊力があるんやと驚き、スプラッター映画かと思う程の残酷な描写に恐怖し、何よりスタローンの怒りのパワーに圧倒されました。ランボーの、というよりもスタローンの戦争への怒りが映画からまさにマシンガンの如く次々と放たれているんです。
 ランボーが救出に向かう途中、怖気づきはじめた、自分と同じ戦争加害者であり被害者でもある傭兵達に言うセリフがあります。
「無駄に生きるか、何かのために死ぬか、お前が決めろ」
 自分に言われているようでした。

 カオルさんは「しょうへい君と付き合ってもいいねんで」と言いました。でも、「しょうへい君には2つ足らんことあんねん。お金と、年齢」と続けて言いました。カオルさんはプロのホステスでした。僕は客と同じようにカオルさんの手の平で転がっていただけでした。営業時間外だったのに。
 カオルさんを想い出すと、僕はなぜか彼女が傭兵達と同じ側に立っている気がします。傭兵・プロの殺し屋というのは切ないものです。無駄に生きようとせず、何かのために死ぬことを目指すというのは、強い人にしかできないことで、戦場の外にいる者にとっては、逆の、無駄に死なず、何かのために生きることが普通です。
 金で雇われ、夜の仕事で何かのために必死に男の下心と戦っていたカオルさんは、強く切ない人だったな、とお金はないけど年齢の増えた僕は少し分かりました。

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プロフィール



宇野祥平

1978年、大阪府生まれ。主演した短篇映画『女』『鵜野』(両作とも監督・前田弘二/05)がひろしま映像展2005でグランプリと演技賞を受賞し注目を浴びた。以降『オカルト』(監督・白石晃士/09)『超・悪人』(監督・白石晃士/11)等の映画に主演。その他の映画出演作に『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(監督・松岡錠司/06)『フレフレ少女』(監督・渡辺謙作/08)『くりぃむレモン 旅のおわり』(監督・前田弘二/08)『ウルトラミラクルラブストーリー』(監督・横浜聡子/09)『ゲゲゲの女房』(監督・鈴木卓爾/10)『NINIFUNI』(監督・真利子哲也/11)『劇場版 神聖かまってちゃん/ロックンロールは鳴り止まないっ』(監督・入江悠/11)『婚前特急』(監督・前田弘二/11)『ハラがコレなんで』 (監督・石井裕也/11)『キツツキと雨』(監督・沖田修一/12)『苦役列車』(監督・山下敦弘/11)『黄金を抱いて翔べ』(監督・井筒和幸/12)『横道世之介』(監督・沖田修一/13)など多数。『舟を編む』 (監督・石井裕也)、『ぼっちゃん』(監督・大森立嗣)が現在公開中。テレビドラマには『深夜食堂』(09、11/TBS)に準レギュラーとして、『D×TOWN~太陽は待ってくれない~』(12/TX)では準主役として出演。BeeTVにて配信中のドラマ『午前3時の無法地帯』にもレギュラー出演している。舞台においても『真夜中vol.3鳥ト踊る』(作・演出:ノゾエ征爾/11)、あうるすぽっとプロデュース『季節のない街』(作・演出:戌井昭人/12)などに出演。

ひとこと・ふたこと

宇野さんが紹介した映画『自由が丘で』は2014年12月13日(土)シネマート新宿ほかにて全国順次公開です。