第13回:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・競艇場<後編>

2010年03月10日

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』の主人公ヌードルスとその親友マックスはとても似ている二人でした。似ている二人であるが故に、意気投合して少年時代を共に過ごし、青年となっても行動を共にしたのです。
 二人は幼なじみ達とギャングを結成しました。危ない仕事をし世を渡る二人は、少しずつ知っていきました。似ていても決定的な一点の違いが、二人を裂くということをです。取り戻せないものほど、最初から決まっている運命のようで、とても悲しい映画です。

 大阪の競艇場で僕が出会ったザキさんとカトウさんも、とてもよく似ている二人でした。背格好、年齢、競艇場で働いている時期が、二人はほぼ同じでした。目指しているものも似ていました。ザキさんは前回書いたように競艇の実況アナウンサー、カトウさんはプロレスの実況アナウンサーを目指していました。僕が働いていた時は、二人ともアルバイトを辞めているけれど、臨時要員で時々働きに来ていました。二人とも30半ばに近づき、目指しているものの実現は果たせていませんでした。
 しかし二人は似ていても、やはり一点の違いで道を分けたのです。ザキさんは職場の者からは変わり者とみなされていました。嫌われ者ではないけれど、どこかツッこみにくい奴という印象でした。一方、カトウさんはというと、おちょくられながらも持前の愛嬌で、特に年上の上司などから親しみを抱かれる人でした。
 そんな二人の分かれ道となったのは、競艇場の社員、僕らの上司がカトウさんに競艇実況アナウンスの仕事を与えた、という事件でした。プロレスの実況を半ば諦めていたカトウさんを見ていた上司がその仕事を持ちかけたのです。ザキさんが競艇の実況アナウンサーになりたくて、そして天才的にうまいということは社員も含め皆が知っていることでした。けれど、カトウさんが実況アナウンサーとなりました。
 その後もザキさんは臨時アルバイトで時々来ていました。僕らは何となくザキさんの前ではカトウさんの話はタブーだ、という暗黙のルールを勝手に守っていました。ザキさんはアルバイト中にテレビ室の壁際で誰に聞かすことも無く繰り広げる天才的な実況を、カトウさんの実況アナウンスがモニターのスピーカーから流れるようになってからもやめませんでした。
 客の喝采と罵声を沸き起こすカトウさんの声と、競艇への愛丸出しで天才的なザキさんとの声とをテレビ室という狭い所で同時によく聞きました。あの狭い部屋に、二つに分かれた大きな道が写し出されているようでした。

 ザキさんから電話がかかってきました。東京駅で会ってから1年程経った頃でした。
 実はザキさんからその電話をもらう前に、僕は競艇場で一緒にアルバイトをしていた先輩と連絡をとった折、ザキさんが万引きで捕まったと聞いていたのです。だから僕はザキさんの電話をとって、少しドキドキしていました。万引きの話には触れてはいけないことを意識をしながら話しはじめました。世間話をしようと思いました。
「最近どうですか?」
「いや……今、福岡おんねん」
「エッ。なんでですか?」
「万引きで捕まってん」
「……」
「手、勝手に動いてん」
僕は何を言っていいか分からず、あいまいな言葉ばかりでした。
「そういえば、選挙入れるとこ決まってんの?」
 ザキさんはまだ戸惑っている僕に聞きました。僕は少し寂しい思いを持ってしまいました。しかし僕は“最後には勝つ”と言っていたザキさんを信用していたため、正直に言いました。
「僕、選挙権ないんですよ」
 ザキさんとの会話はそれを最後に終わり、今日に至るまで、ザキさんがそれからどこで何をしているか、僕は分かりません。カトウさんは大阪から他県の競艇場へと移り、今はもう辞めてしまったと聞きました。僕は厳しい世界だと分かっていながら、プロレスの実況席がテレビに映るとつい愛嬌のあるあの顔を探してしまいます。
 ザキさんは“最後に勝つ”人だと思っているので、ギャンブルはあまり良くないことだけど、僕は時々競艇場へ出向いて耳を澄まして待っています。

プロフィール



宇野祥平

1978年、大阪府生まれ。ひろしま映像展2005でグランプリと演技賞を受賞した短篇『部屋』(前田弘二監督/05)に主演し注目を浴びた後、『 東 京 タワー オカンとボクと、時々、オトン』(松岡錠司監督/06)『フレフレ少女』(渡辺謙作監督/08)他多くの話題作に出演。2009年の春公開され話題を呼んだ『オカルト』(白石晃士監督/09)で主演。2010年は『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』 (大森立嗣監督/10)や『ゲゲゲの女房』( 鈴木卓爾監督/10)など。2011年も映画を中心に活動中。

ひとこと・ふたこと

現在、TVドラマ「深夜食堂」(TBS、MBS、RKBほか)に準レギュラーで出演中。また、公開待機中の出演作に、横浜聡子監督の映画『真夜中からとびうつれ』『おばあちゃん女の子』(11月5日(土)~18日(金)まで、渋谷ユーロスペースにて公開)、石井裕也監督『ハラがコレなんで』(11月5日(土)から、渋谷シネクイントほか全国ロードショウ)がある。