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服部一成さんギャラリートーク

先週末、金曜日の夜は再びgggにて開催中の「服部一成二千十年十一月」展へ。 
この日は服部さんと、『アイデア』編集長・室賀さんよるギャラリートークがありました。 
 
今回の展示が、いかにして出来あがったのかを、直筆の構想プランに沿って服部さんが解説。 
ギャラリーの壁ではなくベニヤ板を使ったことや、ポスターの四隅をしっかり留めていない理由、 
「手をふれないでください」のスタンプの秘密…。 
 
「展示のやり方一つで、自分のデザインに対する考えが顕わになってしまう」 
自由で軽やかなグラフィックたちと、服部さんの言葉が持つ確かな重み。その対比がとても面白い。 
 
手元のメモには、いくつかの言葉。 
「(デザインする)対象を見つめていて、そこから答えが出てくるとは思っていない。対象とは無関係に形があるのがいい」 
「デザインは同時代の機械や技術に寄り添っている。その時代に合った機械や技術と一緒に作るのも楽しみの一つ」 
 
 
展覧会は、今月27日まで(日曜・祝日はお休みです)開催中。 
会場では関連書籍やオリジナルポスターも販売されています。 
 
(編集部T)

服部一成二千十年十一月

昨日、ギンザグラフィックギャラリーではじまった
服部一成さんの個展のオープニングパーティへ。
 
1階には木の板で作られたいくつもの小さな部屋がつらなり、
壁の一面一面が、違う絵柄の新作グラフィックでうめつくされていました。
カラフルで不思議で愛らしい、服部さんの作品世界の中に
入り込んだような気分になれる楽しい空間。
 
そして地下1階ではこれまでに服部さんが手掛けたグラフィック作品、
広告、雑誌や本、展覧会のポスター、様々なロゴマークなど、
10年ほど前のものから現在まで、新旧の作品が展示されています。
 
その中に、「真夜中」も!
創刊号から最新号まで、コーナーを作って展示してくださいました。
個人的には、大ファンだった「流行通信」と同じ空間に、
「真夜中」が並んでいることが嬉しくて、現実味がないほどでした。
 
編集部一同、改めて、服部さんの作品に魅了された夜でした。
 
(編集部H)
 

 
服部一成二千十年十一月
ギンザ・グラフィック・ギャラリー
11月4日(木)~11月27日(土)
日曜・祝祭日休館 11:00am-7:00pm(土曜日は6:00pmまで)
入場無料
http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/

真夜中No.11訂正と補足です

「真夜中」No.11、p144の奥付に誤りがございました。
訂正いたします。
関係各所のみなさまにご迷惑をおかけしたことを、お詫び申し上げます。
 
●訂正箇所
No.10→No.11
 
 * * *
 
また、p52~57の、「いかしたセリフ――ミュージシャン名言集」
にて掲載いたしました、ミュージシャンの言葉の出典を以下に記します。
ミュージシャンの魅力的な生き様や言動にあふれた本ばかりですので、
ご興味持たれた方は、書店や図書館で、どうぞお手にとってご覧ください。
 
●トム・ウェイツ
『トム・ウェイツ 素面の、酔いどれ天使』(東邦出版、2008)
パトリック・ハンフリーズ:著/金原瑞人:訳
 
●ビリー・ホリデイ
『奇妙な果実 ビリー・ホリデイ自伝』(晶文社、1971)
ビリー・ホリデイ:著/油井正一、大橋巨泉:訳
 
●矢沢永吉
『成りあがり 矢沢永吉激論集』(小学館、1978)
矢沢永吉:著
 
●ニコ
『ニコ 伝説の歌姫』(アップリンク、1997)
リチャード・ウィッツ:著/浅尾敦則:訳
 
●美空ひばり
『ひばり自伝 わたしと影』(草思社、1971)
美空ひばり:著
 
●高橋悠治
『高橋悠治 コレクション1970年代』(平凡社ライブラリー、2004)
高橋悠治:著
 
●ビョ―ク
『ビョークが行く』(新潮社、2003)
エヴェリン・マクドネル:著/栩木玲子:訳
 
●エミネム
『ダークストーリー・オブ・エミネム』(小学館プロダクション、2003)
ニック・ヘイステッド:著/立神和依、河原希早子:訳
 
●エルヴィス・プレスリー
『エルヴィス伝 復活後の軌跡1958-1977』(みすず書房、2007)
ピーター・グラルニック:著/三井徹:訳
 
●エディット・ピアフ
『わが愛の讃歌 エディット・ピアフ自伝』(晶文社、1980)
エディット・ピアフ:著/中井多津夫:訳
 
●グレン・グールド
『グレン・グールド著作集2 パフォーマンスとメディア』(みすず書房、1990)
グレン・グールド:著/ティム・ペイジ:編/野水瑞穂:訳
 
●カート・コバーン
『JOURNALS』(ロッキング・オン、2003)
カート・コバーン:著/竹林正子:訳
 
●ベートーヴェン
『ベートーヴェンの日記』(岩波書店、2001)
ベートーヴェン:著/メイナード・ソロモン:編/青木やよひ、久松重光:訳
 
●シューベルト
『シューベルトの手紙 「ドキュメント・シューベルトの生涯」より』(メタモル出版、1997)
シューベルト:著/オットー・エーリヒ・ドイッチュ編/實吉晴夫:編訳
 
●ジョン・ケージ
『ジョン・ケージ著作選』(ちくま学芸文庫、2009)
ジョン・ケージ:著/小沼純一:編
 
●忌野清志郎
『十年ゴム消し』[新版](河出書房新社、1993)
忌野清志郎:著
 
●ボブ・マーリー
『ボブ・マーリィ語録集』(アップリンク、1995)
ボブ・マーリィ:著/イアン・マッカン:編/山本緑、山本安見:訳
 
●コートニー・ラブ
『「ローリング・ストーン」インタビュー選集 世界を変えた40人の言葉』(TOブックス、2008)
ヤン・S.ウェナー、ジョー・レヴィ:編/大田黒奉之、宮原まさ江、友田葉子:訳
 
●ジェームズ・ブラウン
●キース・リチャーズ
●ジム・モリスン
●ブライアン・ウィルソン
●レイ・チャールズ
●ロバート・ジョンソン
●ジョージ・ハリスン
●ジョニ・ミッチェル
●デヴィッド・ボウイ
●ジミ・ヘンドリクス
『ロック伝説 プロフィールとインタビュー』[上][下](音楽之友社、1995)
ティモシー・ホワイト:著/石岡公夫、月村澄江:訳

真夜中NO.11

真夜中NO.11校了しました。
 
発売より一足はやく、表紙をご覧ください。
 

 
特集は「音楽と言葉とエトセトラ」。
 
音楽誌ではない「真夜中」に、音楽をテーマにして何ができるだろうと思いましたが、
ミュージシャンの言葉ってなんて様々な魅力に溢れているのだろう、というところから始まり、
音楽家の言葉、詞、楽譜、音楽家や音楽にまつわるエッセイ、など、
「音楽」と共に渦巻いている「言葉」の、独特の素晴らしさについて編みたいと考えました。
 
もちろん、特集以外のページも、ぜひご一読いただきたい企画ばかりです。
より詳しい情報は、近日『最新号の読みどころ』にUPします!
 
発売は10月22日(金)です。
 
(編集部H)

ドリフターズ・インターナショナル『アンバランス色素ルーシー』

きらきらと瞬く光が飛び散るような公演を目撃しました。
 
中村茜さん、金森香さん(次号NO.11でコラムを書いてくださる予定)、
藤原徹平さんの3人が理事を勤める
NPO法人ドリフターズ・インターナショナル
サマースクール公演『アンバランス色素ルーシー』です。
 
ドリフターズ・インターナショナルは、
建築、パフォーマンス、ファッション、アートなど様々なジャンルの
若い才能を育み、海外への道を開拓していくことを目的に、
各界で現役で活躍する講師陣を招きワークショップを行う団体です。
 
今年7月24日から始まった“ドリフターズサマースクール”
に参加した生徒たちが成果を発表する公演が、
この『アンバランス色素ルーシー』でした。
 
ダンスコース、ファッションコース、建築・空間美術コース、
制作コースに分かれ、それぞれが発表公演に向けてアイディアを
出し合い、徐々にひとつの形にしていったそう。
(レポートブログに講習中の様子がアップされています。)
 
入口で手渡されたジーンズのポケットで作られたチケット、
光沢のある白いヴェールのような透ける素材の布と、
何本ものリボン状の布が柵のように天井から垂直に吊るされ、
それらによってYの字に区切られた空間、
デニムを利用した、16人のダンサーそれぞれの個性に合わせた衣装、
そして、ずっとずっと遠くのどこかを見つめながら、
衝動と喜びを体いっぱいで表現したようなダンス…
 
この日目にしたもの全てに、
いろんなアイディアのぶつかり合いがあったことが感じられ、
ものを創ること、表現することの楽しさを、
伝えてもらったような気がしました。
 
このメンバーでは、今回の発表でひとまず活動を終えるそうですが、
ドリフターズの今後がとても楽しみです。
 
まるで閃光のような、素敵な公演でした。
 
(編集部H)
 

昼の熱、夜の熱――金氏徹平×エルメス、CALF設立&リリースイベント

数寄屋橋交差点にある、エルメス銀座店。 
今号の「真夜中」で巻頭コラムを執筆して下さった、 
金氏徹平さんの作品が9月14日までウィンドウを飾っています。 
 
金氏さんが一つ一つ拾い集めた生まれた場所も日にちも違う日用品の数々が、 
白い石膏をまとうことで、新しい集合体へと生まれ変わる。 
まだまだ衰えない日射しに照らされ、溶けてしまった白い森。 
森の中に光るいくつかの点に目をやると、そこにはエルメスの商品がありました。 
 

こちらがメインウィンドウ。

 
正面の大きな2つのウインドウから、側面に続く小さなウインドウへ。 
炎天下ということも忘れ、ついつい壁にはりつき長居をしてしまう見応え。 
「ライトアップされた夜もおすすめ」(金氏さん談)だそうです。 
銀座にお出かけの際は、ぜひ足を運んでみてください。 
 
* 
 
そして、昨日31日の晩はインフォメーション欄で紹介した、 
映像のインディーズレーベル「CALF」のレーベル設立 & DVDリリースイベントを見に、座・高円寺へ。 
会場に着くと、そこには既に上映を待つ人たちの長蛇の列! 
立ち見が出るほどの盛況ぶりでした。
この日は、CALFメンバーのアニメーション作家たちの作品に加え、
平林勇・真利子哲也(8号でインタビューに答えてくれました)両監督の実写短編の上映、
観客もペンライトを持って参加したトーチカによるPiKA PiKAワークショップ…、 
という内容ぎっしりの素晴らしいプログラム(プログラムの詳細はこちら)。
なぜ彼らがCALFを立ち上げたのか、作品を見ることで実感出来た部分はとても大きい。 
 
メンバーの一人、和田淳さん(ベネチア映画祭に参加されるそう!)の 
DVDリリースに合わせて特集上映があるとの嬉しいアナウンスもあったり、 
今後もCALFを追いかけようと決めた夜でした。 
 
 
(編集部T)

名古屋へ~島袋道浩さんinあいちトリエンナーレ~

先週末から開催されている「あいちトリエンナーレ2010」。
真夜中NO.10の旅特集にご登場いただいた島袋道浩さんが参加しています。
島袋さんの20年間の代表作を集めた作品集、
『扉を開ける』も会場にて先行発売になり、内覧会に招待いただきました。
 
「あいちトリエンナーレ2010」は、名古屋市内の4つのエリアを中心に
世界各国の約130組のアーティストが展示を行う国際芸術祭です。
 
島袋さんが展示をしている名古屋市美術館で、島袋さんと待ち合わせました。
噴水がきれいな白川公園内にある美術館に向かう途中、公園の中にも作品が!
 

 
美術館に展示されていたのは、愛知県の三河湾にある離島、篠島で制作された作品で、
島袋さんによって“漁村美術”と名付けられた作品たちは、
篠島に滞在した島袋さんが島の人々と接する中で出来上がったものでした。
 
たくさんのブラウン管テレビに魚やタコをさばく映像を映し出したもの、
篠島の家々を抽象画風にカラフルに塗っていた“篠島デ・クーニング氏”
に島袋さんが依頼した新作、
島で一番の大男(通称大将)の等身大の日光写真、など…
他にも篠島の空気をたっぷり堪能できる、
島袋さんならではのロマンチックでつい笑顔になってしまうような
作品がいくつも展示されていました。
 
真夜中NO.10のよしもとばななさんとの対談でも、
ご自身の作品を「観光ガイドみたい」とおっしゃっていましたが、
まさに島袋さんに篠島への旅へ連れ出してもらったようでした。
 
その後、島袋さんと一緒に『扉を開ける』を置いてくれている本屋さんを回りました。
 
名古屋市美術館1Fのミュージアムショップ、
愛知芸術文化センターB2Fのナディッフ愛知
そして、トリエンナーレの会場のひとつである長者町エリアにある
ブックショップ、YEBISU ART LABO FOR BOOKSへ。
 

*写真はナディッフ愛知
 
この3箇所では、あいちトリエンナーレ限定先行発売中です!
その他全国書店でも、9/10に発売予定です。
真夜中と合わせて、『扉を開ける』もぜひ手にとってみてください。
 
そして私は見きれなかった作品を見にもう一度名古屋へ行こうと思います。
(編集部H)
 

『扉を開ける』
島袋道浩
¥3990(税込)
*9/10全国発売予定

真夜中BOOKS・伊佐山ひろ子著『海と川の匂い』トークショー

日曜日の夕方。青山ブックセンター本店で、
伊佐山ひろ子さんの14年ぶりの著書 
『海と川の匂い』刊行記念トークショーが行われました。
 

 
伊佐山さんは、“べべ”の愛称で親しまれ、70年代の日活ロマンポルノを強烈な存在感で彩った女優さんです。
その後も多くの映画やテレビに出演されています。
 
『海と川の匂い』は、伊佐山さんの「真夜中」での連載に書き下ろしを加えた短篇集で、
「撮影中の監督さんの言葉や風景が映像として頭の中に残っていて、もう一つの映画を観ているように感じていた。
頭の中にある映像を、書きとめて、それを読み直して、また書きくわえて、という風に出来上がった本」
とお話しされていました。
 
この日ゲストとして登場いただいたのは、テレビドラマ『週刊 真木よう子』『モテキ』などを手掛ける
大根仁監督と、映画『童貞。をプロデュース』『ライブテープ』などで注目を集める松江哲明監督です。
 
映像作家であるお二人から伊佐山さんに投げられる質問と、
伊佐山さんのフィルモグラフィーの中からピックアップされたいくつかの名場面を観ながら、トークは進みました。
 
デビュー作『白い指の戯れ』や、主人公のはるみを演じた『一条さゆり 濡れた欲情』などの代表作をはじめ、
『北の国から ’84夏』のラーメン屋の店員など、伊佐山さんの名シーンを振り返りながら、
撮影中の裏話もお話しくださいました。
 
私にとって特に強烈で、『海と川の匂い』の書き下ろし短篇「ポルノ」にも登場するエピソードが、
ポルノ映画で“前バリを貼らない”こと。松江さんにそのことについて聞かれると、
「だって、はがす時痛いし、みっともないじゃない」と伊佐山さん。
本の中では、「肉でできたバービー人形のようになるのは、ぜったい恥ずかしくて嫌だ」
と書かれています。伊佐山さん曰く、男性が必ず前バリをするので、問題はないそう。
 
また、『昭和枯れすすき』の吉永小百合さんとの共演シーンで、
台詞は平気で言えるのに、手の震えが止まらなくて何度も何度も撮り直し、
緊張で呼吸ができていないのではと気遣ったスタッフから酸素ボンベを持ってこられ
戸惑ったというエピソードは、笑い話のように話されていましたが、
女優業の苛酷さを垣間見た気がしました。
 
ゲストの大根仁監督の作品『アキハバラ@DEEP』(2006)の“伝説のメイド”役も映り、
貫録のある風貌で、黒のワンピースに白いフリルのエプロンを着こなし、
スカートの下にはいた虹色の毛糸のパンツ(“伝説のメイド”の象徴)をダイナミックに披露するシーンで、
会場を沸かせる場面もありました。
 
映画の中でもかわいらしい衣裳が印象的でしたが、
この日も素敵なミニのワンピースにショートブーツでご登場され、
そのチャーミングさと女性らしさに魅了された2時間でした。
(編集部H)
 

『海と川の匂い』
伊佐山ひろ子
¥1680(税込)

真夜中BOOKS、小野正嗣著『夜よりも大きい』

8月2日21時すこし前、帰宅途中の小野正嗣さんと、代々木上原の文教堂書店で待ち合わせ。
駅前のちいさなお店で夕飯を食べながら単行本の打ち合わせをしました。
 
小野正嗣さんは、「真夜中」創刊号からNo.4まで
「くだかれた生のかけら」というタイトルで短篇連作小説を連載してくださいました。
この4回の連載と、その前後にほかの雑誌に発表した短篇をあわせて、単行本を準備しているのです。
本のタイトルは、雑誌連載時とはかわって、『夜よりも大きい』。
 
それぞれの短篇小説は、ひとつひとつ独立していて各々一篇ずつ区切りながら読み進めることができますが、
小説の背景というか、背後に流れる感触というか、その世界は、共通しています。
 
夜よりも大きいもの、大きな脅威に、
生をおびやかされ、虐げられた子供たちとその母親は、
それでもいかにしてこの世界で生きているか。
名もない兄妹が、ぎゅっとつかんで放さないものはなにか。
何か知れない大きな音が鳴り響くとき、この小さな者たちは……。
 
今日小野さんにお目にかかったのは、雑誌に発表した各短篇のテキストを
単行本収録順に並べかえすべて通して読み返して、直しを入れてくださったゲラを受け取るため。
雑誌に載ったときにすでに一度しっかり校正をしているはずなのに、
再度かなりこまかく丁寧に全体をご覧くださっていて、
感激するとともに身の引き締まる思いがしています。
 
用件がひと段落つくといつも小野さんは、
最近出た翻訳小説や、近頃観た映画のことなど、いろいろお話しくださいます。
すごい読書量だなぁと驚かされながらさまざまな本のお話を伺う、幸福な時間です。
ピンチョン、難しいけどすごいよ、と、
気になりつつまだ買っていなかった『トマス・ピンチョン全小説 メイスン&ディクスン』のお話を伺うにつけ、
読書欲がぴりぴり刺激された夜でした。
 
「真夜中」発、単行本『夜よりも大きい』鋭意制作中です! (編集部F)

中島敦とサイパンと日本語

真夏日、どころか猛暑日がつづいた7月末、
この日7月29日は朝からのつよい雨のおかげか、すこしひんやりと感じるくらい。
本誌に「南洋と私」を連載してくださっている寺尾紗穂さんにお会いしました。
 
この7月10日には、吉祥寺のSTAR PINE’S CAFEであった寺尾さんのライブを聴きに行ったばかりだったので、
寺尾さんの歌声とピアノの音が耳の奥でよみがえってくるのをたのしく感じながら、
夕方、京王線の駅前で待ち合わせて駅近くの喫茶店へ。
 
連載タイトルにもある「南洋」というのは、
第二次大戦中日本が占領していた島々、旧日本領「南洋群島」のこと。
ミクロネシアのサイパンやパラオ、マーシャル諸島などを含む地域です。
旅行で行った屋久島で、鞄に入れていてたまたまページをめくった中島敦の短篇を読み、
寺尾さんは南洋群島への興味を抱きはじめます。
「真夜中」No.8掲載の連載第1回に、このときのことが書かれています)
 
中島敦は官吏として日本語教科書編集のため、1941年この南洋群島へ派遣されました。
この地でのおよそ9ヶ月の経験をもとにした作品は、
「幸福」「夫婦」「寂しい島」「夾竹桃の家の女」「マリヤン」などいくつもあります。
南洋でしるした日記や、日本の妻と子どもたちに宛てた手紙なども、文庫本で読むことができます。
 
寺尾さんはとりわけ、「マリヤン」を読んで「南洋群島」に出会ったといいます。
2004年に2度サイパンを訪れた寺尾さんは、
日本語を話すことのできるおじいさんやおばあさんを探してお話を聞いてきました。
日本占領下サイパンでも、現地住民に対して日本語教育が強制的に行われていて、
当時子どもだった方々は、歳を重ねてなお日本語を覚えている。
このとき聞いた日本語でのお話を思い出しメモを見直し、いま、寺尾さんはそれを文章に書き継いでいます。
 
  *
 
コーヒーを飲みながらサイパン旅行の際の写真を収めたアルバムを見せてもらっていると、
次の号で書こうとしている人は、このおじいさん、と一枚の写真を指さしながら教えてくださいました。
 
逆光で、その写真のなかのおじいさんの顔は暗がりに沈んでいましたが、
小柄ながらも精悍な体つきなのが見てとれます。
日本にも数年住んだこともあったそうです。
寺尾さんは、この方に、どんなふうに話しかけたのだろう。
この方は、寺尾さんに、どんなお話をしたのだろう。
 
できることならこの秋、パラオに行けたらいいなぁと寺尾さんはおっしゃっていました。
6年ぶり3回目の、ミクロネシアへの旅。
2004年、お話を伺ったとき93歳だったあのおじいさんは、いまでもお元気かどうか。
 
占領下、日本語を教えられて育った現地の人も、いまではもう高齢になっています。
お話を聞くにも、あんまりゆっくりとかまえてもいられないのが現状です。
寺尾さんの2010年パラオ記、読みたいです。
 
  *
 
7月22日に発売したばかりの「真夜中」No.10では、サイパンに初めて行った寺尾さんが、
日本語を話せるお年寄りを訪ねていく道すじと、
そこで出会ったおじいさん、1933年生まれのFrancisco Cruz Satoさんとのお話が綴られています。
かつて覚えた日本の字を思い出しながらカタカナでお名前をノートに書き記し、
あるいは突然朗々と日本語のうたを歌いはじめる瞬間、
フランシスコさんというひとりの人が生きてきたこの七十年あまりが、
寺尾さんの目の前にひろがっていたのだろうなぁと感じます。
 
では本誌「真夜中」の「南洋と私」を、どうかのぞいてみてください!(編集部F)
 

寺尾さんが屋久島でページをめくった、文庫サイズの『ちくま日本文学全集 中島敦』。「マリヤン」も収録されています。この版は絶版、現在は同じ内容の新装版が出ています。


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