昨年、一緒に富士山に登った石川直樹さん、山崎ナオコーラさん、前田司郎さんの三人の作家が(真夜中NO.7収録)、今度はネパールのエベレスト街道へ。
皆の足取りを気にかけながらも二度目のエベレスト登頂を心に決めた石川さん、暮れゆく山道をたった一人気丈に歩き通した山崎さん、胃の不調により途中の山村で数日間を過ごすことになった前田さん。ゴツゴツした岩道、大きな荷物を担いだ牛たち、薄れゆく空気――三人の文章によって、誌面に浮き上がるエベレスト街道。
遠くには、世界一の頂きも見えてきます。
「別の場所へ行きたい、そこは平和だろうか?」――下北沢にて、作家のよしもとばななさんと、一時帰国中だったベルリン在住のアーティスト島袋道浩さんが、それぞれの人生と制作を通じて見つめるようになった「もうひとつの旅路」。
新刊『アナザー・ワールド 王国その4』のミコノス島やランサロテ島をはじめ、異国の地を舞台とする多くの小説を世に送り出してきたよしもとさんと、人の生き方やコミュニケーションに関する作品を世界各地で発表し、8月に作品集『扉を開ける』が刊行予定の島袋さんがもらす「一番幸福な旅のイメージ」とは。おふたりの撮影は金村修さん。
島袋道浩さんが参加予定の「あいちトリエンナーレ2010」は8/21より10/20まで
今年4月に公開にされたデビュー作『カケラ』で注目をあつめた映画監督、安藤モモ子さんの初小説!!
主人公茜は、エルトン・ジョンの誕生日に仕事を辞め、母の貯めていた結婚資金で旅にでる…。ひとり現実と向き合う切なさと、胸が高まるような知らない世界の空気、そして一度読んだら脳裏にこびりついて離れない強烈なエピソードで一気に展開する物語は、暑い夏の旅気分を誘います。
ロンドンやNYでの留学経験をはじめ、海外の様々な町を訪れてきた安藤さんが、記憶の断片をひろい集め、女のひとり旅を描きました。例えばイギリスの南端にある小さな町、セント・アイブスが、ヒントのひとつになっている、とのこと。
青山のRainy Day Bookstore&Cafeにてパリの工房で作成したリトグラフ作品の個展を開催するなど、画家としての顔も持つ安藤さん。扉には、描き下ろしの絵も添えられ小説をさらに引き立てています。
長谷部千彩さんは書きます。「“ここまで長かったです。でも、諦めなければ、なんとかなる、という感じ”それは私の正直な気持ち。ひとりでどこかに行きたい、知らない街でゆっくり過ごしてみたい、と思っても、学生ならともかく、仕事を持つ人間がそれを実現するのは難しい」。
目的のない2カ月の滞在。むせかえるような空気を掻きわけるように、香港という街を歩く。中環(セントラル)から乗ったスターフェリーから見えた夕陽や、窓辺の香水、九龍公園のフラミンゴや、モスグリーンのビクトリア・ハーバー、呉冠中の絵のトランプ…香港の鮮やかな断片が文中にちりばめられています。大人の女の紀行文。
まんまる瞳に一文字の眉、おかっぱ頭の女の子…写真家・川島小鳥さんの展示と写真集(売り切れ店続出で現在品切れ状態だそう)で話題をあつめた佐渡島に住む女の子“未来ちゃん”が、はじめての海外旅行に出かけました。
ウクライナからパリ、ロンドンを経由してフィンランドへと到る長い旅。前半のウクライナ~ベルギーを本誌での連載も記憶に新しい東野翠れんさん、後半のパリ~フィンランドを川島さんが同行します。
流れる車窓の風景を目で追って、大きな銅像と一緒に記念撮影、街角のカフェでほっと一息。小さなトラベラーの足跡を、二人の写真家がカメラに収めました。
トンコリ奏者OKIさんの旅の記憶。トンコリとは、カラフト・アイヌの伝統楽器で、5本の弦をエゾマツやオンコを伐り出した細長い胴に張ったもの(姿かたちがとてもかわいらしいです)。アサンカラ(旭川)アイヌの血をひくOKIさんは、今年1月、トンコリ源流の地サハリンを訪ねる旅に出ました。低く昇る太陽の光を真正面に浴びて、十数年前のアリゾナ、インディアン自治区の砂漠に立った日を思い出す…。
OKIさんのライブでは、トンコリの音に心揺さぶられつつ、素敵なトークも聞けるはずです。その見事な語りのマジックは、今回のエッセイでもいかんなく発揮されています。
リンギスを、かつて日本にはじめて紹介した管啓次郎さんは、著書『オムニフォン』に、リンギス(の本)との出会いを綴っています。
――1994年にAbusesを読み、すっかり面食らった管さんは、リンギスに手紙を書きます。あなたはブラジル人にちがいないと思うがどうか。リンギスからの答えは、私はリトアニアからアメリカに移民した農民の子供です、というもの。それからときおり、世界の思いがけない場所から、挨拶のように写真を送ってくれることがあった。2001年、ロンドンで顔を合わせられるはずだった前日が9月11日で、彼は大西洋をわたれなくなり、それ以来、連絡も途絶えた。――
今回訳出した「マタガルパ」は、このAbusesからの1篇です。
二人のイラストレーター、佐藤紀子さんと前田ひさえさんによる共作11ページ!!
パリ、京都、ハワイ、香港、スイス、リスボン…世界各国を旅行中の女の子が、旅先から親友に宛てて送ったポストカード。カードには、メッセージの代わりに旅を満喫する女の子の姿が…。
世界のポストカードを佐藤さん、旅行中の女の子を前田さんが担当しました。オーバーレイというカラーシートを使って色鮮やかに描かれたポストカードは、全部で8ヵ国分! カードの裏面に貼られた切手や消印のスタンプまで、細部もそれぞれの国の絵柄で描かれています。カードの中で旅行カバンを抱えて飛び回る女の子は、ショッピングやビーチを満喫したり、途中ホームシックになったり、夜にひとり親友に想いをはせ手紙を綴ったりしています。そんな旅行中の女の子の様々な表情が、鉛筆で繊細に描かれています。
お二人は、実際に以前よりお手紙のやりとりをされていたそう。相手を想いながらひとり手紙を綴るように描いてくれた渾身の絵と絵が、真夜中で出会いました。No.10の表紙も、このお二人によるものです。
連載鼎談の最終回、ついにゴダール最新作『Film Socialisme』を、見て語る!
ゴダールの、さらに過激で孤独な「ソシアリズム」を、もっと過激に語りあう。あるいは、誰の共感も不要という覚悟と自分にも媚びない徹底 した無感動ぶりで蓮實・青山両氏の心に触れた北野武監督作『アウトレイジ』(黒沢監督は未見)。もうひとつの暴力映画、韓国の新人ヤン・イクチュン監督作 『息もできない』。そして、ゴダールが反ユダヤ主義者と糾弾されもするこの現在と、またかつて同じ憂き目にあったダニエル・シュミットへと話題はめぐり、 話は尽きない。