『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』 ネイサン・イングランダー 著/小竹由美子 訳

 図書館のアンネ・フランク関連の本のページを何者かが破るという事件があって、早速色んな人が意見を書いていたり、色んなプロジェクトが立ち上がっていたりするけれど、僕が思ったのは、シンプルにみんなもっとアンネ・フランクの本を借りたらいいんじゃないかなということ。借りることが一番のチェック機能になるし、そもそも借りられている本は破れない。

 それで『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』を借りてきたのだけど、この本、正確にはアンネ・フランクについての本ではありません。ブルックリン在住のユダヤ人の著者による、現代のユダヤ人の状況をユーモアのある会話にのせて語る短篇集です。ユダヤ人のことって言うと関係ないって思ってしまう人もいるかもしれませんが、ユダヤ人や彼らの風習なんかが今との関わりで書かれているので、リアリティがちゃんとある。
 表題の『アンネ・フランクについて語るときに僕たちの語ること』は、二組の夫婦の話。サウス・フロリダ、つまりいかにもアメリカらしいアメリカに住むあるユダヤ人夫婦のもとに、イスラエルから正統派ユダヤ教徒の二人が遊びに来ます。久しぶりに再開した四人は昼間からウォッカを飲み、息子が隠していたマリファナを吸い、すっかりごきげんになって、あるゲームをはじめます。
そのゲームとは、「もし今、第二のホロコーストが起こったら、誰が自分たちをかくまってくれるか?」ということを問いかけてみるという遊び。
 遊びのようですが、それはすなわち、本当に自分たちを命を掛けてまで護ってくれる人はいるのか、と自らに問いかけるけっこうハードな遊びでもあります。そして彼らのゲームは激苦い結末を迎えます。
 決して繰り返すことはないと思いつつ、そのきざしをどこかで感じながらそれぞれの生活を送る現代のユダヤ人のことを、心に留めておきたいと思いました。