『幽霊屋敷の謎(ナンシー・ドルー・ミステリ 2)』キャロリン・キーン 著/渡辺庸子 訳

 美男美女のズーイとフラニーとをはじめ、名門学校に通う7人兄弟、グラス家の混沌とした生活を描写したシーンがあります。それは居間にある家の本棚。
 腰の高さの3段の本棚には、教科書、古本屋の本、ブッククラブの本、子供の本など無節操にぎっしりとつめ込まれています。具体的なタイトルも書かれていて、『ドラキュラ』が『初級パーリ語』の隣にあり、『少女探偵ナンシー・ドルーと秘密の階段』が、キルケゴールの『恐怖と戦慄』の上になっている。といった具合。

 パーリ語も気になりますが、『少女探偵ナンシー・ドルーと秘密の階段』とはなんなのでしょう。ちょっと調べてみると、1930年にアメリカ人女性作家、キャロリン・キーンによって発表された、「少女探偵ナンシー」シリーズのこと。聡明な少女ナンシーが、偶然であった難事件を知恵と機知で解決していくというストーリーで、瞬く間にアメリカのティーンエイジャーに大人気のシリーズとなりました。日本でいえば「金田一少年の事件簿」のようなものでしょうか?
 日本でも創元推理文庫やフォア文庫から「少女探偵ナンシー」シリーズとして翻訳が刊行されています。

 弁護士の父ら家族や友人たちに暖かく見守られながら、伸び伸びとその能力を発揮するナンシーの物語は、サリンジャー的世界とは対極にあります。だからこそ、混沌とした本棚の象徴としてこのタイトルが挙がったのでしょう。
 自分について多くを語らなかったサリンジャーですが、どうしても作品に滲み出る「苦手としているもの」から、彼の本質にアプローチするというやり方もあるのかもしれません。