『えいごのもと 60単語で「イメージ力」を身につける』関谷英里子 著/Noritake イラスト

 新訳が出るとつい以前のバージョンと比べてみたくなります。もちろん元の文は同じなので、大きな違いはないはずだけど、現代の文章や世相に合わせて微妙にアップデートされて読みやすくなったり、言葉って生きものだなあと改めて思ったりします。
 そう考えると、翻訳というのは言葉を一対一でパズルのようにはめていくものというよりは、もう少し広く捉えて、隣に同じような絵を描くような行為なのかもしれません。
 と、思ったのはこの『えいごのもと』という本を手にしたから。
 著者は同時通訳の分野で活躍されている方。スピードと正確さが同時に求められる同時通訳では、日本語にいちいち置き換えるのでは間に合いません。「なんとなくのニュアンス」を共有するために、彼女が編み出したのが「英語をイメージで捉える」という方法。
 そのことでより本質的な理解にもつながるといいます。

 例えば「draw」という単語。「描く」だけでなく、「(お金を)引き出す」や「(相手の関心を)引く」と言った意味があります。これらをそれぞれ覚えるのではなく、「近くに引き寄せるイメージ」として覚えることで、drawの持つ意味を大きく理解することができます。

 ちなみに 「experience」は、「試して得たこと/もの」というイメージだそうです。
『Franny and Zooey』で、experienceという単語を探してみると、33ページにありました。

They know from experience that I burst into tears at the first harsh or remonstrative word.

 とあります。それぞれの訳文を探してみると、

『フラニーとズーイ』(新潮文庫・村上春樹訳)
少しでも手厳しい、あるいは問い詰めるような物言いをしたら、私がすぐによよと泣き崩れてしまうであろうことを、彼女たちは経験的に承知していたのだ。

『フラニーとゾーイー』(新潮文庫・野崎孝訳)
手きびしく決めつけたり訓戒めいたことを言ったりすると、たちどころに私が泣き出してしまう人間であるということを、経験によって彼女たちは承知しているからなのである。

 単なる体験ではなく、その体験によって理解すること、それが「experience」という単語が持っている意味だということが、よくわかります。