『文字の食卓』正木香子 著

 音を音階で理解する絶対音感があるように、文字を書体(フォント)で感じる「絶対フォン感」(僕が今命名しました…)のようなものがあるみたいです。文字を見れば使われている書体がわかって、内容より書体が気になってしまう。
 知り合いのデザイナーにもそういう人がいますが、同じものを見ても僕には見えないものがこの人には見えているんだと、ちょっと悔しくなってしまいます。

「文字の食卓」の著者、正木香子さんの場合は書体がわかるだけでなく、その文字の印象が主に食べものの記憶と連動してみえてきます。例えば「石井太明朝ニュースタイル」という書体を見れば、炊きたてのごはんを連想する、という具合。これだけ書くと何のことやらという感じですが、その書体を使った文章例と、彼女の印象とを書かれると、たしかに文字から湯気の立ち上る真っ白なごはんが思えてくるから、これはもう特殊な才能としかいいようがありません。

 そんな正木さんが「花びら」のよう、というのが、「リュウミン」フォント。DTPの基本書体として幅広く利用されている端正な明朝体ですが、彼女が子どもの頃、夏休みの読書感想文の課題図書には、決まってこのフォントが使われていたそうです。
 うすい花びらのようなスッキリとした文字が、優等生的で読書を強要する大人の思惑を感じて、反抗的な気持ちさえ抱いたこともあると言います。

 彼女の能力は誰もが得られるものではないとは思うけれど、文字を見て花を思う人がいるのだから、花を見て文字を思っている人も、この花見の混雑の中に1人くらいはいるかもしれませんね。