『ミツ バルテュスによる四十枚の絵』バルテュス 著/ライナー・マリア・リルケ 序文/阿部良雄 訳

 そんなバルテュス展で、僕が一番好みだったのは、こんなの本人にバレたら怒られちゃいそうだけど、彼が最初に発表した一連の作品『ミツ』。
 バルテュスが11歳の時に描いた、猫と少年を主人公とする40点のデッサンに、詩人のリルケが序文を寄せたこの作品は、1921年に発表され、日本でも1986年に翻訳版が発行されて以来、何度か出版社を変えながら長く親しまれています。
 その後猫をモチーフとする作品を多数描き、「猫の王様」とまで言われたバルテュスの原点ともいえる作品です。

 一匹の仔猫を譲り受けた少年は、両腕にしっかり抱いて家まで連れて帰り、「ミツ」と名づけます。それからはいつでも二人は一緒。ごはんを食べるときも、散歩をするときも、ベッドに入るときも、クリスマスの夜さえも。
 しかしその関係はずっと続くわけではありません。猫をこよなく愛する人間と、誰にも縛られない猫との、根本的な通じ合えなさ。
 猫を飼う人がきっと感じる、ぬくもりと切なさが入り混じるあの感覚を、言葉もなく単色のデッサンだけで淡々と描いた傑作です。