『アトリエの巨匠に会いに行く ダリ、ミロ、シャガール…』南川三治郎 著

 ゴールデンウィーク中とはいえ今日は平日。それなのに、上野公園の東京都美術館は「バルテュス展」目当てと思われるマダムたちで、けっこうなにぎわいを見せていました。
 正直、これまでバルテュスに興味を持ったことはなくて、今回のお題じゃなかったらきっと見なかったであろうこの展覧会、結論としては行ってとてもよかった。
 猫好きの画家くらいのイメージしかなかったバルテュスのことを、研究熱心で惚れっぽくて、アヴァンギャルドで少女趣味で、日本が大好きだって知ることができたのもよかったし、「光と、あとは静けさがなによりも大切。」と語る、彼のアトリエを再現した展示もとてもよかった。

 このアトリエとは、1754年に建てられたスイスで現存する最古・最大の木造建築物”グラン・シャレー”の自宅兼アトリエ。当時、日本人の節子夫人と娘の春美さんと共に暮らすバルテュスを、おそらく初めて取材した日本人がいます。
 写真家の南川三治郎。単身で渡欧し、300人以上のアーティストのアトリエを訪れ取材した中から、『アトリエの巨匠に会いに行く』では31人の巨匠たちを紹介します。
 彼がバルテュスのアトリエを訪れたのは1993年。節子夫人の手前、初日は居間での撮影やインタビューにしぶしぶ答えてくれたものの、アトリエには頑として入れてくれません。そして二日目には部屋にこもって出てこなくなってしまいます。しかし、そこで諦める南川さんではありません。こっそり別棟のアトリエに忍び込み鍵のかかってないあかり採りの窓をみつけ、決定的な一枚をものにします。
 もうほとんど犯罪ですが、無人のアトリエにはテーブルというテーブルに絵の具や絵筆がぶちまかれ、長椅子にはその場で横になったことを思わせるブランケットが数枚乱雑に掛けられています。
 この光景は決して見られたくなかった天才の努力と苦悩の跡。アトリエにはバルテュスの本当の姿が宿っていました。