『衣服と気候』田村順子 著

「衣替え」をしなくなってずいぶん経ちます。周りでも「今日から衣替えです。」なんて人はあまりいません。
 フリー稼業で一年中同じような格好をしているせいでもあるけれど、本来「衣替え」ってファッションではなく、気候と関係した行為のはずです。
 その一方で、暑いからっていきなりステテコや甚平を着るのも何だかなあと思ってしまう自分もいて、「衣替え」というのは意外と奥深いものかもしれません。
 そんな時、『衣服と気候』というそのままなタイトルの本を見つけました。
 日常の大気現象を科学的に解説するという成山堂書店の「気象ブックス」シリーズの39番目だというのだから本格的です。

 服装学の先生で、着心地の研究や世界の民族服の研究などを行っている著者は、衣服を「人間に最も近い持ち運びできる環境」と定義します。
 「人間は気候に合わせて柔軟に着るものを変えてきた。」というのが彼女の考え。それは衣替えをしなくなった現代においてもそうなのでしょうか?

 そこで彼女は生徒とともに、新宿駅南口の交差点で一年間、男性・女性がどのような格好をしているかを調べました。
 そのデータに観察日の平均気温を組み合わせると面白いことが見えてきます。

・長袖よりも半袖(含むノースリーブ)の着用者の方が多く見られるのは、男性で23.0度、女性で21.1度を超えるとき。
・冬衣料(コート、ジャンパー、ロングパンツなど)が着用され始めるのは、男性は15度、女性は18度を下回ったとき。
・冬から春(向暖期)より夏から秋(向寒期)のほうが同じ気温でも冬衣料の着用率が高い。

 つまり、男性の方が女性よりも寒さや暑さに強い(感じにくい)ということかもしれないし、女性は季節を先取りしたファッションを好むということかもしれません。
 また、人間は寒さに慣れる、というのも最後の話から読み取れます。

 その他の章も、世界の民族服をそれぞれの気候から分析したり、クールビズ政策を、環境問題や日本人の社会規律と結びつけて考えたりと、ファッションではない切り口でこんなに服を語れるのかと、暑さも忘れて読みふけってしまいました。