『小さな風景からの学び さまざまなサービスの表情』乾久美子+東京藝術大学 乾久美子研究室 著

 とにかく「飽きる」ことが問題です。自分の感情のくせに自分ではコントロールできない、そして一度なったら元に戻ることはできない。そんなやっかいさが「飽きる」にはあります。
 しかも世の中には飽きさせようとするトラップが手ぐすねひいて待ち構えています。新しい商品、新しい情報、より良い(とされている)生活、こうありたい(と自らが思う)自分……。こうなると現状に飽きない方がむしろ難しそうです。

 いきなり話がそれましたが、飽きなければすなわち長く続けることができそうです。

 建築家の乾久美子さんは、東日本震災の被災地を訪れた際に印象的な光景を目にします。それは市街地を見下ろせる木の茂る丘にポツンと置かれた二脚の椅子。梢の下でかつての生活を思い出しながら市街地を見ることができるようにと、一人でも二人でもいいように、誰かが絶妙の間隔で置いた二脚の椅子に彼女は深い感銘を受けます。
 普通の人なら、その写真をFacebookか何かに上げて37いいねくらいがついて終わりになるところを、なぜそんなに心を揺り動かされたのかということを彼女は考え続けます。
 そして、町の中にふと見つけることができる心地良い場所、それを大学の研究員生と共にひたすらリサーチしました。リサーチの方法は、気になる風景を見つけたらとにかく正面から写真を撮ること。半年間という長い期間、集まった写真の数はなんと約18000枚にもなりました。
 そこから「なんとなく気になる」を「なぜ気になるのか」に分類する作業がはじまります。その理由を170にもなる「ユニット」に分けて、そのうち150のユニットを掲載したのが、この本『小さな風景からの学び』です。
「等間隔」「気持ち大きめ」「ズッコケ三人組」といった並びかたや大きさといった観点もあるかと思えば、「奥が明るい」「影がちらちら」「同じ色で揃える」といった光や色でまとめられたものもあります。
どれもどこかで見たような風景を、見事に言い表したユニット名にいちいち膝を打つことになります。

その場にある自然と無意識の人々の行動が生み出した、なんとなくの心地良さ。そんな場所を見つけるための、素晴らしいガイドになりそうです。