『東京断想』マニュエル・タルディッツ 著/石井朱美 訳/高橋信雅、ステファヌ・ラグレ 画

●東京の異邦人部門
 建築設計事務所「みかんぐみ」のメンバーの一人で、来日30年のフランス人建築家、マニュエル・タルディッツによる、85の東京。彼にとっては東京の町を歩くことが日々の生活であり、一方で旅でもあるというハイブリッドな視点が、独特の雰囲気を醸し出しています。
 古代から現代までの歴史の中に自分を置き、さらにマルコポーロの『東方見聞録』から日本の『浦島太郎』など膨大な文献の引用により、記憶と町並みを交差させて論じます。
 例えば、古代ローマの「フォーラム」(市場の立つ広場)や古代ギリシャの「アゴラ」(集会場)と、哲学者・和辻哲郎の提唱した「家」論とを対比させ、中心に公共スペースの少ない東京の事情を、私的空間を重視する日本人のメンタリティーから読み解く、と言った具合。
 例えるなら贅を凝らした洋菓子を、蛍光灯の下でメラニ→ミン塗りテーブルで食べているかのような、ハイブリッドでかつそれぞれであるという類まれなる視点です。
 日本人にも、まして観光客や短期滞在者にも決して見ることができない東京が彼には見えていることに、嫉妬すら覚えます。
 高橋信雅の緻密な線画による挿絵、LABORATORIESの加藤賢策によるブックデザインも素敵です。