『そこは表現の学校のような場所でした 月刊ブレーン 2014年10月号別冊』伊藤総研 編集

 僕が今まで会った人で最も船が好きな人といえば、それはもう圧倒的に柳原良平さんです。フナキチと自称されているくらいなので、もちろん好きなのはわかっていたのですが、数年前にインタビューをさせてもらうために自宅に伺った時に、予想以上の体験をしました。自宅は横浜の高台にあり遠くに港が見えます。インタビューの途中、船の汽笛が鳴り響きました。その瞬間、柳原さんはソファから跳ね起き「〇〇丸だ!」と窓へと歩み寄りました。そうです。柳原さんは毎朝、新聞に載っている船の横浜港への寄港時間をチェックして、どの船が何時に港に着くのかを覚えていたのです。

 そんな柳原さんの代表作が、サントリーのウィスキーの広告に出てくるキャラクター、アンクルトリス。その広告を作ったのは、柳原さんが作家、開高健、山口瞳らと結成した広告制作会社サン・アドだというのは有名な話です。
 やっと本までたどり着きました。
 この長いタイトルの本は、サン・アド50周年を記念して発行された、これまでの活動を社員や関係者が振り返りながら、サン・アドならではの広告の作り方を記したものです。
 コピーライターも写真家も、デザイナーももちろん、それぞれが煌めくばかりのタレント集団なので、当然個性はあるのですが、それがサン・アドという一つの船に乗っていることで、大きな進行方向というか価値観を共有している。例えばそれは、
〝「人間」らしくやりたいナ〟(サントリー トリスウイスキー)に代表される、まっすぐなコピーだったり、伝統的に使われる書体が存在する(ゴシック体ならMB101BやMB31)って話だったり、背景にある物語が大切にされていたり、といった具合です。
 それはまるでゆっくりまっすぐ進む大きな船のような、ってテーマに寄せすぎですが、でもそんなことをうらやましく思いました。