『ザ・サークル』デイヴ・エガーズ 著/吉田恭子 訳

 幅さんをすごいと思うことが二つあって、一つは人差し指だけでキーボードを操ること。ものすごい勢いで両手人差し指でタイピングする様は、もはやケンシロウかと見紛うほどで、こいつは怒らせたらヤバイと思ったものです。
 もう一つはSNSをやらないこと。酔っ払った時に「ヒロシにシェアするプライペートはない。」って言われた時は、寂しさも悲しさも通りすぎて、清々しさだけを感じました。
 
 そんな幅さんにぜひ読んで欲しいのが、僕が敬愛するデイヴ・エガーズの新作『ザ・サークル』です。舞台は「サークル」なるIT企業。アメリカ西海岸、キャンパスと呼ばれる巨大な社屋を構え、インターネットの検索シェアは9割以上、「トゥルーユー」なる既存のすべてのIDを束ねられる実名制のSNSを運用しています。つまりgoogleとFacebookが一緒になったような会社です。
 旧友の紹介でサークル社に職を得た、24歳の女性メイがこの物語の主人公。CE(カスタマー・エクスペリエンス)部に配属された彼女、何もかもが顧客からフィードバックされた点数で評価されるため、日々高得点を取るために懸命です。
 CE業務の傍ら、社内でもイベントが日々目白押し。参加はもちろん、それについて発言することが求められます。それをしないと、全社員をコミュニティ参加意識で順位を付けた、パーティランクが下がっていくのです。
 出来事は公開することを奨励され、他人の発言にニコマークをつけるのもパーティランクを上げる大事な要素。彼女のデスクには、会社の内外とコミュニケーションを取るための第2、第3…のモニターが増えていきます。
 
 そんなサークル社が全社を挙げて取り組むのが「透明化」と呼ばれる運動。つまり生活のすべてを公開するのです。その布石として、メイはサークル社の代表として「透明化」されることになります。胸に高性能のマイク付きのカメラを付け、朝起きてから寝るまで(トイレの時にマイクを切る以外)が動画でネット配信されます。
 当然プライバシーはゼロ。メイの行動はやがて大変な事件を引き起こします。
 
 滑稽な設定のようですが、けっこう洒落にならない感じが最近はしています。ネット上の極端な意見はすぐに炎上し修正を求められ、マイナンバーで税金は管理され、あらゆる場所で公明正大さが求められるようになっています。隠したいのは後ろめたいことがあるからだろうと言われたら、なかなか反論しづらいものです。
 
 どんどん窮屈になるそんな世界でも、幅さんにはSNSもやらず、二本の人差し指からネガもエロも発信する、最後の闘士になってほしいと願っています。