『雪男は向こうからやって来た』 角幡唯介 著

 突然ですが、みなさんは雪男っていると思いますか?なんか毛むくじゃらのゴリラみたいな、イエティとか、ヒバゴンなんて呼ばれている、未確認生物のあれのことである。この『雪男は向こうからやって来た』の著者である角幡唯介は新聞社を辞めて、偶然にも雪男探しに巻き込まれた方。おいおい、大丈夫なのか?その男の人生は?とおせっかいにも心配する人は、まあ正常な反応だと思う。会社辞めて、雪男ですもの。
 イエティ・プロジェクト・ジャパンという捜索隊に加わることになったものの、角幡本人も元は「いない」と思い込んでいた側。世間の冷笑を横目に見つつ、けれども彼は未知なる生命体のイメージを自分なりにリセットしなければならないことに気付く。シプトンの撮った有名な足跡写真から夢想し、世の人々が考えた雪男のパブリックイメージと自身が探すべきものの距離を縮めてゆく彼。そして、確実に彼の内側にも棲むようになる雪男。
 そこを起点にこのノンフィクションは加速する。捜索の地、ヒマラヤに入っても一向にポジティブな話は聞こえてこない中で、ダウラギリⅣ峰コーナボン谷に向かう一行。捜索を続けるうちに繋がってくる1本の線。隊長の高橋を雪男探しに駆り出した一人の日本人冒険家、鈴木紀夫の存在。フィリピンのルバング島で残留日本兵小野田寛郎を発見した男として知られる鈴木が、人生の最後に追い求めた未知が雪男だったという事実と、今回の捜索が急激に交錯し、読者を思いもよらなかった場所へ運ぶ。果たして、雪男との邂逅は!?
 人は未知を求めるが、本来は未知が人を選ぶのかもしれない。この本は、そんな未知に選ばれるためには、世界に対して自分がどんな風にひらいていないといけないかを、僕らに伝えてくれる。