『くまさん』まど・みちお 著

 まど・みちおさんが亡くなって、さみしい。お会いしたことはないけれど、「ぞうさん」や「やぎさん ゆうびん」など、僕が小さな頃から口ずさんでいた言葉の中に、すでにまどさんがいた。
 彼を見出したのは北原白秋だったといわれているけれど、病を患った晩年に国家主義へと傾倒していった北原に対して、最前線で太平洋戦争を経験したまどさんは、老いとともにどんどん潔くシンプルになっていった。そのおおらかで優しい言葉の背後には、もちろん深い悲しみや憤りが隠されていたのだけど。
 この『くまさん』は、僕の思う中で、最も「春らしい」まど・みちおの作品集だ。表題作のくまさんも素敵だけれど、やはり今の時期なら「さくらの はなびら」という詩が、よいのかな。まあ、多くは語るまい。ただ、彼の詩に目を通してみてください。小さなものを見つける眼と、大きなものを俯瞰する眼、そのふたつを持っていた偉大な詩人でした。

「さくらの はなびら」

えだを はなれて
ひとひら

さくらの はなびらが
じめんに たどりついた

いま おわったのだ
そして はじまったのだ

ひとつの ことが
さくらに とって

いや ちきゅうに とって
うちゅうに とって

あたりまえすぎる
ひとつの ことが

かけがえのない
ひとつの ことが