『カレーを食べに行こう』安西水丸とカレーの地位向上委員会 著

 安西水丸さんと食事をした時、その酒量に驚いた。一晩で日本酒の一升瓶が簡単に空いてしまう。安西さんは新潟県村上市の宮尾酒造でつくっている「〆張鶴」を贔屓にしていたけれど、その晩はたしか「八海山」だったかなあ。じつに美味い酒だが、さすがに一升ともなると胃袋のほうも警報を発令する。僕はちびりちびりとペースを落としていたのだけれど、安西さんは尻上がりにペースを上げてきた。そして、へべれけな我らを横目に「じゃ、また」といって颯爽とタクシーに乗り込んでいったのだった。自分にできるかわからぬが、スマートな酔い方を学びました。
 ちなみに酔っぱらった安西さんは、もっぱら中日ドラゴンズの話をしていた。(井端の移籍問題に心を痛めておりました。)そして、カレーライスの話。結局、僕は参加できなかったけれど、安西さんは「カレーライスと日本酒の会」を催していたそうだ。カレーと日本酒なんて不思議な食べ合わせだと思えたが、米からできている酒がカレーに合わないはずがないという安西さんの信念は、『カレーを食べに行こう』という本からも伺える。
 これは、「安西水丸とカレーの地位向上委員会」が編纂したカレーエッセイとカレーのおいしい50軒のお店の紹介だ。委員会は嵐山光三郎、百瀬博教、山本益博、泉麻人という、カレーというより人生の手練たちによってできているのだが、やはり安西さんのエッセイからは、彼のカレー愛がにじみ出る。(いや、カレー的に匂い立つ感じかもしれない。)
 エッセイ中で、安西さんは、「カレー」ではなく「カレーライス」にこだわっているのだと明言している。やはり、米があってのカレーなのだ。そして、カツカレー、コロッケカレーなど、亜流カレー?に向けられる眼差しの厳しいこと。隣でカツカレーを注文した嵐山光三郎とのやり取りは必読である。
 また、その文章の中では、最後の晩餐についても書かれていて、当然というか必然というか、安西さんはカレーライスを選んでいた。「カレーライスに西瓜を一片、それに冷たいコップの水一杯」。「コカコーラ・レッドの福神漬が一つまみ置かれている」。カレー、ちゃんと向こうで食べられたかなあ。