『ド・ローラ節子が語る バルテュス 猫とアトリエ』夏目典子・NHK出版 編

夏目典子の『猫をさがして パリ20区芸術散歩』は、猫を案内人にしながらパリの芸術家を巡る秀作だった。そんな夏目の新刊『バルテュス 猫とアトリエ』は、画家バルテュスの本質をあぶり出そうとする1冊。もちろん、猫も出てくる。骨子としては、バルテュスの妻、ド・ローラ節子の語る孤高の画家像を軸にしながら、彼の作品を紹介してゆく1冊である。
 バルテュスこと、バルタザール・クロソフスキー・ド・ローラは1908年の生まれ。彼が孤高といわれるのは、あらゆる美術史におけるムーヴメントとは距離をとり、独自の美意識を追求し続けた点にある。フォービスムやキュビスム、未来派や表現主義、ダダやシュルレアリスムなど歴史の地図上に彼の名前はない。
 けれど、静謐で気品に充ちた彼の絵からは、確かに何だかいい匂いがする。そして、「有名な作家が描いた絵」とか、「教科書で見た絵」とか、「オークションですごい価格の絵」などという点でしか絵画を評価できず、キャンパスの上に塗られているものを眼前にしながら先にキャプションをのぞき込んでしまうような鑑賞者に問いかけるのだ。「あなたは芸術に何を求めるのか?」と。
 ヨーロッパの伝統絵画を徹底的に研究しながら、同時代の何にも似ていなかったバルテュスの作品は、きっとその問いかけに対して考え続けるためのヒントを提示するだろう。
 そして、本書のタイトルにもあるように、猫の話も忘れてはならない。友人からも「猫の王」と呼ばれたバルテュスは、決して難しい人ではなかった。なぜなら、いつも雌猫が「ミャーミャー鳴きながら」彼の後をついてきたらしいもの。猫に好かれる人間で、悪い人はいない。実際、猫モチーフの作品を多々生み出した画家の背景が、妻の言葉から浮かびあがる。
 微笑みながら読める猫好きのするバルテュスの等身大の姿と、彼の作品の深淵部分をうまく組み込んだこちらの1冊。上野で開催中のバルテュス展と併せて、ぜひどうぞ。