『難民と紛争 緒方貞子の回想』緒方貞子 著

 今週のテーマ「女が偉くなること」という意味で、彼女の本をピックアップするのが似つかわしいのかどうかよくわからない。この本を読めば、緒方貞子には、権力に対する欲なんて微塵もなかったことが容易に見てとれる。けれど、国連の難民高等弁務官として、紛争の最前線に立ち続けた彼女を誇らしく思えるのもまた事実。そのタフな現場で、彼女は何を考え、何と戦ったのか?
 国連のヘリコプターでサラエボに入った際も、緒方は防弾チョッキに身を包んでいた。「防弾チョッキを着たグラニー(おばあちゃま)」と、人はあとから彼女のことを呼べるが、その現場で命を懸けていた彼女の緊張感は、僕の想像では及ばない領域だ。
 彼女が国連難民高等弁務官を務めた10年の間に、イラク、バルカン、アフリカ大湖地域、アフガンで行った支援活動についてまとめた本書。紛争を起こしている者、腰の重い先進国、日々疲弊していく難民たち。それらに挟まれながら支援活動を続けざるを得ないUNHCRの内実が、あくまでも現場からの声として読者にも聞こえてくる。
 どこの現場にもそれぞれの問題は当然ある。だが、どんなにっちもさっちもいかない状況であっても、緒方は実際的な解決の糸口を見出そうとする。つまり、ロマンティストでありながら、リアリストなのだ。「さあ、私たち国連が来たので、皆さん仲良くしましょう」で終わってしまえば、世界から紛争なんてすぐに消え去るだろう。だが、そうはいかない現場で、外部からの軍事介入や政府活動による圧力を利用しながら、最も痛みの少ない落としどころを探す緒方。理想ばかりに燃え、くじけてはうじうじする男共には、できない仕事かもしれない。