『拡張するファッション ドキュメント』林央子 編著

 水戸芸術館は思いのほか遠かった。けれど、観にいってよかったと心から思える展覧会だった。林央子のキュレーションする『拡張するファッション』展のことである。
 このほど、そのエキシビションをまとめた1冊が刊行された。その名も『拡張するファッション ドキュメント』。ストレイトなタイトルだが、展示会全体が放つメッセージも負けず劣らず力強い直球だったから、個人的にはしっくりくる。そして、「ファッション」と我々が呼んでいる事象について、僕らの頭の中を衣替えしなければならない、とも気づくだろう。現代の街中にあふれるファッションとは明らかに違った何かが、この本には収められている。
 ホンマタカシが撮った展覧会場の作品や観客の写真が続く前半。そして、参加アーティストたちと林の対話をまとめたのが後半。
 ファッションといっても、シャネルやサンローランが登場する服飾史とは明らかに違う。ガーリームーブメントに代表される90年代というファッション史の小さな一部分に宿っていた自由な朗らかさ。そして、素直にあぶり出される美しさを余すことなく吸い込んだ、彼女たちの特別な時間。そんなものが、この展覧会には確実に存在していたのだ。
「デザイン」という言葉の使い方が難しくなったように(いまでは誰もデザイナーズ携帯などとスマートフォンを呼ばない)、「ファッション」という言葉も常に変容し続けている。かなり使い方の難しい言葉になってきている。そんな移ろいと時を同じくして、毎日服を着るという行為も、思いもよらないどこかへ流れていくのかもしれないと思った。