『地元菓子』若菜晃子 著

 厳密にいえば家出ではない。ただの進学だ。東京の大学へ通うため18年間住み慣れた家を離れたときは、なんともいえず、せーせーしたものだ。やっと両親の庇護を離れて気楽に生活できると。(本当は学費をもらい、仕送りを受けている次点で完全に庇護下にあったのだけれど。)
 じつは一人暮らしも大して楽ではないことがすぐに明らかになるのだが、そんなときに実家から送られてきた荷物に入っていた「しるこサンド」のことを、なぜだか急に思い出した。当時、妙に染みたのだ。
 全国区とはとてもいい難いが、近所のスーパーでは必ず売っていて、積極的というより惰性で食べていたもの。ばあちゃんと一緒に。それが、僕にとっての「しるこサンド」。そして、この『地元菓子』で紹介されるのも、全国津々浦々のローカルお菓子たちだ。
 著者の若菜晃子が旅先で出会ったお菓子を紹介したこの本。彼女の一人称で語られるゆえ、全てのお菓子を完璧に網羅しているわけではないけれど、若菜自身の驚きや感動も一緒に真空パックしてある点が、本書の誠実さ。
 幸運なことに我らが「しるこサンド」も92頁にちゃんと紹介されていた。その歓びを存分に語りたい気持ちもあるが、一方で今週のテーマに照らしあわせるなら、家出中に絶対読んではいけない本だと思う。
 それぞれの人を育んできた地域性や風土は、無意識の体に染み付いている。そんなものが呼び覚まされるトリガーとして、地元菓子に勝るものはないような気がする。家出中の人は、気をつけて下さいな。地元菓子厳禁。食べると家出のモチベーションをへし折られます。