『新訳 ビーグル号航海記 上下巻』チャールズ・R.ダーウィン 著/荒俣宏 訳

 ただいま僕は船旅中である。バルセロナからギリシアのビレウスまで、ピースボートという船に乗り込んでいるのだ。世界を一周するこの船だが、その一部区間に乗船し、船内本棚をつくる仕事をしている。だが、なかなかこれが愉快で大変。船上では、いつもと勝手が違いすぎるのだ。
 船旅なんて初めてだから、初期は船酔いでふわふわ。慣れてくると、一面真っ青の水平線が延々と続く。もちろん、美しく感動的なのだが、人の感動持続力には限界があるらしい。待てども、待てども、陸はまだやってこない。
 今日はイタリアのリヴォルノに寄港したのだが、地べたの何とありがたいことよ。普段踏みしめていた陸地なのだが、地球に陸があることが奇跡的に思えた自分に驚いた。
 そして、今日は船内に持ってきた『新訳 ビーグル号航海記 上下巻』を紹介しよう。言わずと知れたチャールズ・R.ダーウィンの大航海日誌なのだが、荒俣宏の新訳によって生まれ変わった。個人的には、かなり読み易くなった。若い 22 歳のダーウィンの好奇心旺盛な人柄を感じさせるような翻訳なのだ。
 1831 年にイギリス南西部にあるデヴォンポートを出港し、サンチャゴ島、リオ・デ・ジャネイロ、ブエノス・アイレス、パタゴニアなどを経由し、世界を一周。有名なガラパゴス島での日誌も下巻で味わいながら、1836 年にイギリスのファルマス港に到着するまで、じつに 5 年間の記録である。
 注目すべきは、やはり後年の『種の起原』につながるガラパゴス島での気づきがさらりと書かれている点だろうか。諸島の生き物は似通っているものの、たしかに島ごとに個別の生物構成を成している→が見られることをダーウィンは確信する。カメを見ただけで、どの島のカメか言い当てることができる者まで現れ、島ごとの独自進化に彼は目をつけるのだ。
 どの寄港地でも、彼は目を見ひらき、旅先での一期一会を全身で享受する。
 僕はまだ数日の海上生活だけど、彼が陸地に再上陸したとき、世界を凝視したくなった気持ちが少しだけ分かった気がした。