『京都土壁案内』写真:塚本由晴 案内:森田一弥

 京都のシティガイドは多々あるけれど、1冊まるごと土壁案内の本はこれ以外に見たことがない。「土壁を見ない京都の建築巡りは、寿司を食べずに日本料理を語る以上に片手落ち」と著者の森田さんは冒頭で語るのだが、すみませんでした、僕はそこまで気にして歩いたことがなったなぁ。多分、みなもそうだと思うのだけれど。
 なんでも京都は聚楽土、稲荷山黄土、九条土、桃山土、浅葱土、錆土など個性豊かな土に恵まれた土の王国らしい。そして、その多様な土とさまざまな技法を駆使した13の土壁が数ページのエッセイと写真、デッサンによって紹介される。ちなみにバイリンガルだから、プレゼントにもいいかもしれない。相手を選びさえすれば。 
 東本願寺のなまこ壁や豊臣秀吉が寄進した三十三間堂の太閤塀などは、何となく印象に残っていただけに、言われてみるとふむふむと頷くところが多い。一方、大徳寺玉林院の茶室蓑庵など行ったことがないような場所の土壁も話を聞き、写真を眺めると実に興味が湧いてくるのだな。茶室の暗がりに浮かぶその美しい壁は、15センチほどのワラが壁の表面を舞うように散らしてある。著者は「小さな宇宙を覗き込んでいるような気分になる」と書くが、なんともいえず神聖な空気は、ちゃんと僕にも伝わってきましたよ、森田さん! その技法を知ると、よりその尊さが理解できたのだが、詳しくはまあ読んでみてください。
 まったく興味のない人に、自分が熱狂的に愛しているものを伝えることは、ほどほど愛しているものを伝達するよりも、難しい。自身の熱がしっかりと制御できていないと、相手がどこまでついて来てくれるのかの想像力が働かなくなってしまうからだ。熱は盲目。けれど、この本は著者2人の情熱がよい感じに冷却され、きちんと僕には入ってきた。こんど京都に行った際は、ちゃんと土壁に注意と敬意を払うことを、ここに誓っておきます。