『ニューヨークで考え中』近藤聡乃 著

 アーティストの近藤聡乃さんから、1冊のエッセイマンガが届いた。2008年秋に単身ニューヨークに渡った彼女が、その街で感じた日々のあれこれを見開き2ページ、一話完結スタイルで描いたものだ。彼女の作品は、ドローイングであれアニメーションであれ、奇妙にも心掴まれ、離してくれないことがよくある。このマンガもまったく同じで、一話だけのつもりで事務所の机で読み始めたら、気がつけば最後まで通読してしまった。
 彼女が暮らすニューヨークの街で、見知らぬ人に突然靴を褒められたり、地下鉄NQラインのカーブの遠心力を楽しんだり、欧米人の薄着に驚いたりする何ということのない日常。その、何でもないことが彼女の手にかかると「くふふ」と微笑んでしまうような物語になる。
 なかでもこの本の最初と最後を飾る「未踏の地」という話はじつに印象的だった。ニューヨークのコインランドリーに座り、洗濯物が乾くのを待っている彼女が、「目と鼻の先にあるのに踏んだことのない場所」について考える。家のなかの部屋の隅っこの、ひょっとしたら足を踏み入れていない場所について想像する。その着眼は、なかなか持てるものではない。もしくは、憶えていられることではない。近藤さんは、偶然にも気づいた、その手の小さくて愛しいことを、ちゃんとポケットに入れておくことがとても上手な人なのだ。
 少しずつニューヨークの街に馴染んでいく彼女と街の邂逅録として楽しめるこの1冊。製本もユニークなコデックス装というノド部分まで全開で開くつくりになっていて、彼女の一枚絵をたのしむような気持ちでページをめくることができる。ぜひ、ぱらりと開いてみてください。