『マールとおばあちゃん』ティヌ・モルティール 作/カーティエ・ヴェルメール 絵/江國香織 訳

 古典から一転、こんどは絵本を紹介したい。江國香織が翻訳する『マールとおばあちゃん』はベルギー出身の若い2人がつくった絵本である。
 元気いっぱいの少女マールは、おばあちゃんにそっくりの女の子だ。何が似ているかというと、食いしんぼうなところ。一緒に庭をはねまわるのが大好きなところ。二人が揃えばいつもごきげん。桜の木のブランコに乗りながら、手も顔も砂糖でべたべたになるまで二人でクッキーを食べるのだ。
 ところが、ある日おばあちゃんは病に倒れる。そして、ずっと長い眠りに落ちたあと、いろいろな記憶を忘れて目を覚ますのだ。
 最近は介護の現場を物語化した作品も多々見かける。そういう時代が訪れてきているし、そんな状況はずっと続くことだろう。そういった「老い」をテーマにした作品は、「出会い直し」が描かれることが多い。老いたゆえに、もういちど積み上げることが可能な人間関係だってある。
 この絵本でも、かつてのように元気いっぱいで走り回り、饒舌に語れなくなってしまったおばあちゃんと、マールの対話を凛と書き切っている。老いを嘆くのではなく、読者の感傷に訴えるのでもない。その現実を正面から捉え、マールという少女は、老いても変わらない祖母の心をしっかりと受け止める。小さくなった声に耳を澄ます。
 そんな少女の態度を見ていると、老いゆく者に対して弱者を扱うような姿勢で接するのは相応しくないと思えてくる。マールはいう。「おばあちゃんは、なにごともゆっくり、とてもゆっくりするようになった」だけなのだと。動かなくなる体とは別に、ちっとも変わらない部分も、ちゃんとそこにはある。それを僕は小さな少女から学んだのだ。