春先に、伝説のパンク・バンド、AUNT SALLYの未発表ライヴ音源が初CD化され、多くのファンを驚愕させたPHEW。この7月には、ドイツのクラブ系ユニット、Unknown Casesと92年に録っていた音源を収めたコラボレイション・ミニ・アルバム『The Unknown Cases & Phew』も出たが、そんな旧音源だけでなく、9月末には、山本精一たちと組んだパンク・バンドMOSTのデビュー・アルバムも出る予定になっている。21世紀最初の今年は、まさに「PHEWの年」とも言うべき爆発ぶりなのだ。そしてここに、更なる強力な1枚が登場した。ビッグ・ピクチャーは、既に海外でも高い評価を得ている電子音楽ユニット、DOWSERの中心人物であり、青山真治などの映画音楽でも活躍してきた長嶌寛幸とPHEWによるユニットで、サポート・メンバーとして千野秀一、大友良英、近藤達郎といったいずれ劣らぬ気鋭の音楽家たちが参加している。春先にPHEW本人と会ったおり、「MOSTは熱い時間のための音楽であるのに対し、ビッグ・ピクチャーは空間の音楽」だと、両ユニットの違いについて語っていたが、確かに、直情的にビートを律動させサウンドを暴力的にヒートアップさせてゆくMOSTに対し、ここでは、プログラミングあるいはサンプリングされた音や生楽器による素朴なメロディとPHEWの声がもつれ、にじみ合いながら、フラクタル模様のように不定形の空間が増殖してゆく。PHEWの声は、脈絡のある歌というよりは、意味に縛られない響きとしてより機能し、底の見えない空間全体のゆらぎにひとつのトーンを与えている。細部に耳をこらすとけっこう複雑な音作りなのだが、全体としては、実に平明かつプリミティヴな印象を与え、一種、フォークロア的、あるいは音楽以前のなにものかが立ち上がってくるのを聴いているような感覚にとらわれたりもする。エレクトロニクスを飲み込んでなおシャーマニックなこの声の力に、改めてPHEWという異物の絶対性を見る思いである。

2001年夏 松山晋也
前のページへ戻る ▲ページのトップへ戻る