『人体実験』発売記念スペシャル対談!!
内田直之(DRY & HEAVY)× 豊田道倫

―いかがでしたか、『人体実験』は。

内田直之 凄い生々しかったです。CD-Rをもらった時は少し遠い感じがして、それがやたら雰囲気があったんですけど、本チャンのプレスした方はもう、生々しくて。

―そもそもは【内田×豊田対談】をどこかの雑誌に企画を持ち込もうとしていたんですけど、あえなく撃沈されてしまい...。

豊田道倫 ハイ、ハイ〜って感じで軽く(笑)。

内田 (笑)余計に反応はないかもしれないなあ。とくに機材系の雑誌は、機材は何を使っているの?って聞かれても、本当に面 白くない機材ばっかり使っているから、あまり話すことがないんですよ。

豊田 俺はな、ティアック! 414MK2のカセット4トラMTR。意外に音が良くてさ。

内田 うん、意外にね。そう言えば、“つめたい弁当”を聴いて、うちのカミさんが泣いてましたよ。

豊田 あの人いい年して、可哀想にって!?

内田 (笑)いやいや、あまりにもリアルで……。

豊田 嬉しいけど、哀しい……もう内田君の家には行けないかも……しょぼん……。

内田 豊田さんが家に来て、ごはん食べることになっても『あっ、でも冷たい方が良かったんでしたっけ?』って言ったりして。

豊田 (大笑い)……どうだったのよ、僕のアルバムは。

内田 今日もここに来る前に、何回も聴いてきましたよ。

豊田 嬉しいねえ。(同席していた担当のA&Rを指差して)この人なんか全然聴いてないよ!

担当A&R まあ、軽く、ね。

内田 豊田さんのレコードって、何回も聴いているうちにどんどん良くなってくるんですよね。でも今回は一番最初に聴いた衝撃が凄かったですね。

豊田 何? 音?

内田 音もだし、“人体実験”なんて、こんな曲聴いたことないですよ(笑)。今回のスタジオはどこだったんですか?

豊田 ゆらゆら帝国とかもやっている、布田のピース・ミュージックってところ。

内田 音がハードな印象がありましたね。家っぽい響きではあるんだけど、あまり温かい音じゃないですよね。

豊田 意外にロックっぽくなっているかもしれないね。でもね、マイク一本でざくって録ったのよ。

内田 えーと、“大人になれば”と“逢いたい”がそうかな。

豊田 ヘッドフォンもなにもしないで、マイク一本を立てて、『ほんじゃ、やろか〜』って感じで軽くね。

内田 それで上手くいったんですか?

豊田 僕はプレイバックが嫌いだから、曲アタマの3秒くらいだけ聴いてOK出した。全く聴かないと言っていいくらい、聴いてない。

内田 でも、出来てからは聴くんですよね。

豊田 うん。作っている時は興奮しているから、聴いても冷静な判断ができないのよ。僕はノン・プレイバック。“東京で何してんねん”とか一応スタジオでも録音しようとしてたんだけど、でもね、スタジオは音もクリアでいいんだけど、演奏自体があまり興奮していなし、俺的にも興奮しなくてね。音も外盤シングルのB面的な音が好きなのよ。あの雰囲気って格好いいでしょ。

内田 分かる分かる。僕もどっちかっていうと、B面の音が好きですよ。でもね、僕は一発目のバチッとしたインパクトのある音を重視しちゃうんですよ、A面的なものを。

豊田 それも格好いいんだけどね。

内田 だから、豊田さんの音ってA面的なものとは違いますよね。バチンッってくるけど、違う意味のインパクトがある(笑)

豊田 もともとプレイヤーとして崩壊しているからさ(笑)。

内田 このアルバムをもらって、はじめて聴いたのが車で走りながらだったんですよ。夜にね。その時の衝撃はすごかったな。豊田さんのアルバムじゃないような感じがした。ファーストアルバムのような、溜ったものが吐き出されてる感じがしましたんです。

豊田 溜ってたからね(笑)。本当は3枚組にしたいって、レーベルに言ったんですけど、ダメだって言われてしまって。

内田 でも、この1枚は3枚組くらいの質量はありますよね。

豊田 重たいしね……。

―今回のアルバムを作る際に、豊田さんは内田さんから何かアドバイスを受けていたんですか。

豊田 いろいろあるんだけど、自宅で作業をするときにミックスのポイントってどこでしょ?ってことを聞きたかったのかな。

内田 いや、でも僕にしてみれば、豊田さんから教わったようなもんですよ。

豊田 よく言うぜ!(笑)

内田 本当ですよ。98年の『実験の夜、発見の朝』の頃、僕がまだペーペーの名もない頃、いきなり僕にアルバム全部を任せるって豊田さんが言ったんですよ。最初はウソだろって思ったし、仕事の80%がアシスタントみたいな時代だから、やり切る自信もなかった。あのときの事は、いろんなことがあったんで、よく憶えてますよ。

豊田 あったねえ。長い期間レコーディングしてたしね。

内田 だから、フルアルバムを任された時はもう、気持ちで乗り切るしかないと思ってましたね。豊田さんの音楽は、いわゆる普通 のポップスとは違うものだと思っていたんで。だから、勢いで行けば出来るってことを、その時に学びました。豊田さんとの作業は、自分のエンジニア人生の中でも大きな体験でしたよ。

豊田 内田君とは、年齢が近いってのもあるけど、聴いているものとか似てたり、共通 項があったからね。だからあの時、任せようと思ったのよ。いろんなことがあったアルバムだからね、まさに「実験の夜」って感じだったね。

内田 そう。だから、そういう精神は豊田さんから学んだって言っていいくらいなんですよ。

―豊田さんは、『実験の夜、発見の朝』の時のことを「夢のような時間」とおしゃってました。

豊田 良くも悪くもな(笑)。

ちょっとブレイク。 豊田さんの近影(photo by 内田直之)

内田 今回のアルバムではどうだったんですか。

豊田 内田君とやったあの時は『音楽を作る、サウンド的なこと』に重点を置いてたから、『実験の夜、発見の朝』というタイトルにしたんだけど、今回のアルバムでは、それだけじゃダメっていうか、もっと自分の生活や人生で実験をしていかないと、普通 の地味なシンガーソングライターとしてやっていくことになるのかなって思いがあった。それで新しいアルバムを作るまでに3年のブランクが空いたんだけど、その間、全国ツアーしたり、一晩中歌い続けるとか、まず自分の体を実験した。それをパッケージすればいいと思ってたらから、あまりサウンド的なことは考えなかったかもね。自分が実験をしているということをそのまま録音すればいいと思ってたんですよ

内田 確かにそんな感じがしましたね。

豊田 無我夢中……いや、五里霧中だったかも(笑)

内田 でも、聴いてみて、塩辛い感じがしたなあ。過去のアルバムは、どこか客観的な感じがあったんだけど、今回は凄くリアルだったし、ドキュメントだなって思った。言い方は凄く悪いんだけど、後がない感じ。

豊田 そうだよ、後がないもん。

内田 いや、豊田さんじゃなくて、ギリギリな感じっていうか……(笑)。

豊田 僕なりに、今のこの日本の時代の空気を吸った結果の音かもしれない……でも、ギリギリなのは、俺だけじゃないかもしれないね。

内田 それと、これまでは物語のような印象があったんだけど、今回は違いますよね。

豊田 鋭いね、確かにそうかもしれないね。自分でも本当のところは整理できてないんだけど、生々しい曲が多いからテープ録音っていうフィルター、“ロマン”を通 したんですよ。でも、逆にそうした方が生々しいんだよね。

内田 デジタル録音だと、清潔感があるんですよ。

豊田 そうなんだよ。音はいいんだけど、全然、気持ちに迫ってこないんだよね。

内田 よそよそしくなる。

豊田 一瞬ウッってくる感じというか、心の“ざわめき”っていうか、ちょっとむわっとくる感じ。そういう下半身にくる官能的なものをサウンドに感じないなと、僕は好きじゃないよ。そこだけは、表現をする時、今だに大切にしているところなんだよね。それがなかったら、作ってもつまらないんだよ。歌詞も音も実はどうでもいいかも。

内田 なるほどね。何か、豊田さんのCDはこっそり聴かなきゃって気にさせられるなあ(笑)。

豊田 でも、そういう人は多いと思うよ。俺のCDかけてたら、『止めてっ!』って言われて、ヘッドフォンでこっそりとすみっこで聴いて『ウヒヒッ』ってなる

内田 『SWEET26』とか、カミさんと一緒に聴くことあるけど、でも比較的僕も一人で聴くことが多いですね。

豊田 それは、うれぴー(笑)。

内田 とくに“彼”は良かったけど、あれ、音がすごくちっこいですよね。でもそういうのが、ライブ感があって良いんですよ。

豊田 あれは、新宿シアターPooでのライブだね。bunさんが参加してくれて。

内田 昨年末のライブも見たかったな。インフルエンザだったという。

豊田 結構評判よかったよ。インフルエンザで声があまり出なかったけど、逆にいつもよりスッキリ声が聞こえて良かったって(笑)。

内田 でも、今回のアルバムは、豊田さんのいろんな大変な経験が出てますよね。

豊田 いろいろあったからなあ。へへへ…………ライブに関しては、PAがしっかりしてないところでやったのが、活きてるかもね。音だけに頼らないで、自分で空間を作るっていうことを沢山やってきたから。ライブ中でも外で流れてる街の音をそのまま曲に取り込むというか。

内田 “この夜”のイントロとかもそうですよね。

豊田 うん。音楽を取巻く周りの空気感もちゃんと聴くようにするっていうか。

内田 ライブっていうくらいだから。その人の声が聞こえて、周りの音が聞こえて、生を感じるのがライブですからね。

豊田 もともとライブの語源で、アメリカで言うところのリビングの意味だからね。そこで友達とパーティとかやって、バンドが演奏してて。

内田 なるほどね……今回はツアーやるんですか?

豊田 当たり前よ。それが基本だからね。やっぱりちっこい町でも、自分の歌を聞きたいって人が3人でも5人でもいる限りはね。そのためにライブをする義務があるし。それも結構楽しいものよ。

内田 豊田さんが地方でやるライブをこっそり見に行きたいですけどね(笑)。

豊田 嬉しいねえ(笑)。

内田 今回のレコ発ライブは、弾き語りじゃなくて、バンドでやるんですか?

豊田 いや、今回はドラムとデュオ。久下さんとね。他に頼もうと思ってたドラムが引きこもりになちゃって。

内田 本当ですか?

豊田 自分に自信がないみたい。半・引きこもり。自分は終わったと思って、地道に働いてるよ。もう音楽に対する欲求がないみたいよ。

内田 うわあ。やり続けられる音楽ではなかったのかな?

豊田 だって音楽のツールが95年、96年くらいと比べて大分変わったもん。サンプラーが普及して、ターンテーブルがライブハウスに置かれて、コンピューターをみんなが手にしてね……それとは全く関係のない二人が僕ら(笑)。

内田 音楽作る欲求がなくなってしまったのも、技術の向上の弊害かも知れないですね。本来やるべきところをコンピュータが肩代わりしてくれる。

豊田 何でも出来るから、何もしなくなる。

内田 僕はその技術や方法を知ってしまうのは危険だと思うんです。一回知ってしまったら、以降それに頼ってしまうんじゃないかって恐さがあるんです。

豊田 内田君も僕も、これからずっとこのままの方法論でやるとは限らないもんね。

内田 このパターンだと、僕ら一生金持ちにはなれないでしょ(笑)。だってアナログ録音って、今一番お金がかかるから。オープンリールは一本で30分しか録音できないんですよ。その上24chしか使えなくて、値段が3万円もする。そりゃみんなプロ・トゥールスを使うわな。

豊田 音楽を作るのは本当に手間がかかる作業ですよ。

内田 でも今はパソコン1台あれば、楽にある程度のところまで編集ができる。そういう便利さがいろんな不都合や歪みを引き起こすんじゃないかと思ってるんですよ。本来は耳で作業するものを、目で編集するなんて。

豊田 作っている時は聴覚しかないからね。

内田 だから、音楽が聴く愉しみではなくなってきてるんですよ。

豊田 視覚で音楽を作っている人間としては、目で見て、音程やリズムを確認していく方が安心できるんだろうね。だけど、音だけの方がゾワッとする興奮があるし、俺は好きだな。視覚に頼らず、聴覚だけで各人が情景や風景を想像するし、それが楽しい。だから技術の発展って、発展とは思えないのよ。チェック、確認がしたいだけっていうかさ。

内田 だからね、今回のアルバムってある意味ですごく感じるところがあるんですよ。現実がノンリバーブで迫ってくるとうか。

豊田 おっ、いいこと言うね、今のところ採用な!(担当A&Rに向かって)

内田 (笑)そういう現実というか、真理にあわせてミックスできるようになったらいいなと思いますけどね。

豊田 どの曲も同じような感じで、顔つきが変わらないのよ、今の時代。

内田 僕、そういうのペットボトル系って言ってるんですよ。清潔でこぼれない、ツルンとしてて、すぐ捨てられる。そういうよそよそしい感じのするものが、みんなにウケているし、人気があるんですよ。

豊田 泥臭い、暑苦しいものはウケないねえ。下半身にガツンとくる音というかね。

内田 下半身にくる音……なんとなく分かるような気がするなあ。そういうのを追究していきたいですね。

豊田 下半身……じゃ、これからビデオ・ボックス行くか!

内田 ……。

内田さんの近影(photo by 豊田道倫)
2003年3月吉日 下北沢 喫茶マサコにて

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